山の試練
ざざっ
2人が着地した地面。
詩は式神をすぐに出すが、ふとそれをゆるめる。
向き合う彼に、先ほどまでの殺気や闘志がまったく感じられなかったのだ。
湖の湖面のように静かな彼。
そこで詩は気づく。
眩しい...太陽だ。
先ほどまで見えなかった太陽が、いつの間にか真上にあった。
そして、着地した場所も、開けた場所だった。
これ以上、登る坂道もみえない。
ということは...
「ついたのか...?
頂上に...」
詩から、安堵のため息がでる。
そして、今までとは違う人の気配にはっとした。
いつの間にか佇むのは、赤い天狗の面をかぶった、白装束の人。
その者の後ろには、古いが見事な鳥居と立派な境内の神社があった。
直感的にわかった。
「あなたが、南雲十次...」
詩はつぶやく。
天狗の面が、ゆっくりと頷いた。
「案内を頼んだつもりだったが...
派手にやったの...」
そう言って、詩の後ろに目をやる。
そこには、少女が座り込んでいた。
詩の先ほどの攻撃で面が割れ、その顔が見えていた。
思ったより幼く、何より美しかった。
「私に...何をしたの...」
炎のような紅い眼で詩を睨みつける少女は、自由の利かない体を抱え込み、荒く息をしていた。
「そうだった、
わるかったな」
詩は思い出したように、少女へ手を向ける。
すると、少女の肩に張り付いていた式神が詩の手の中に戻り収まった。
それと同時に、一気に少女は脱力した。
先ほどの攻撃でやっと、式神をはりつけることに成功していたのだ。
貼り付けた式神は、その者の自由を奪い支配することができる。
南雲は、その様子を静かに見ていた。
そしてしばらくの沈黙ののち、口を開く。
「東雲 詩、とな?」
老人の声が、静かな境内に響いた。
「はい」
まっすぐに見つめ返し、詩はしっかりと返事した。
「来なさい」
そう言うと、南雲は踵を返し、歩き始める。
ふと狐の面の少年のほうを向くと、彼はすでに少女のそばに寄っていた。
手を貸し、少女は立ち上がる。
「何よ。
いくんでしょ?」
相変わらずの敵対視だが、詩は頷いて、南雲のあとを追った。
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