このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

山の試練



ざわっ





先に緊張を破ったのは、白装束の少年。

いつの間に出した大きな扇子で、またたくまに突風を巻き起こした。

それに式神で応戦する詩。

一気に大量の式神を出し、高速回転させ負けじと竜巻をつくる。

その風はぶつかり合い、2人の力は相殺された。






「なるほどね、風使いか」






見上げる木の上。

すでに少年はそこにいた。

さっきの風で攻撃するだけでなく、自身の体ももちあげたのか。

自分のアリスを隠そうともしないことから、その自信が伺えた。

今まで戦ってきたどのアリスとも違う気がした。






と、今度は彼とは違う気配を感じる詩。

ぱっと飛びのき距離をとる。






どっと地割れの音がしたかと思うと、さっき詩がいた場所の地面から木の根が暴れるように飛び出ていた。

ちらっとみた少女は手を組み合わせていた。

「何度も同じ手にはひっかからないよ」

余裕の表情の詩に、少女も焦った様子をみせなかった。

代わりに、詩が逃げた背後から植物のつたが忍び寄る。

詩がはっとした時には遅かった。

それは詩に絡みつき、自由を奪い締め上げる。

「くっ...」

間髪入れず、身動きのとれない詩に風の攻撃が真正面から襲ってくる。




シュッ




すんでのところで、式神がつたを断ち切り、詩は地面に着地する。






植物使い...か?

それにしても厄介だ。

この山では彼らに地の利がありすぎる。






迷ってたら...やられる。

思ったより数倍、彼らは本気のようだった。






ぶわっ...





詩のまわりに、さらに式神が増えた。

久しぶりで体がなまっていた。

初校長が倒れてから任務はなくなってはいないものの、激減していた。

はやく感覚を取り戻さないと...






ざんっ






一気に2人めがけて、式神の大群が襲う。

少女は蔓や枝木を利用して払うが間に合っていない。

少年のほうも、風を駆使するが圧倒的に詩の式神の量とパワーが上回る。






だが詩は油断していなかった。

少年は息を吸い、装束を大きくはためかせた。

偶然吹いていた風にのせ、その力は倍になる。

今までの何倍もの突風が吹き荒れ、詩は式神の大半を自分の防御に使うほか余儀なくされた。

攻撃の式神は、少女に向けていた分まですべて、ちりじりになる。






強い...

特に風使いの少年...

一瞬にして風をよみ、適切なタイミングで自分の力をのせた。

自分の力は無理なく最小限に抑え、その効果は最大限まで引き上げる。

そこに無駄はなく、美しささえ感じた。







詩は改めて気を引き締め、対峙した。

なんだろう。

この気持ち。

俺は楽しんでいるのか?

興奮に似たこの気分。

式神が、詩の周りを踊っていた。







.
5/7ページ
スキ