山の試練
朝だ。
鳥のさえずりと、陽の光で目が覚めた。
起き上がって驚く。
昨日あれだけ山をかけまわり、力尽きたにも関わらず、傷はすっかりなくなり、信じられないほどに身体が軽くなっていた。
「もしかして、あのこが...?」
身体中を見まわし、夢じゃなかったんだ、と狐の面を思い出す。
村の入口でみたのとはまた別の子だった。
もっと幼くて、陽だまりのようだった。
今ここは、どれくらいだろうか...
木々が深く生い茂り、ここが山のどの地点なのかさえもわからなかった。
わからなくても、選択肢は登り続けるの一択のみ。
「よしっ」
詩は気合を入れなおし、足を進めた。
しばらくして、先ほどとは明らかに雰囲気が変わったのがわかった。
頂上が近いのかもしれない。
不自然なほどの静けさ。
いつの間にか鳥の鳴き声や生き物の気配はなくなり、きこえるのは、ざわざわと風で木々がこすれる音だけ。
どんどん太陽に近づいているはずなのに、不自然なほどあたりは薄暗く不気味な雰囲気だった。
今まで以上に慎重に、あたりの気配を伺いながら足を進める。
と、そのときだった。
ざわざわっと、木々が揺れた。
それが、詩には木々たちが何か話しているようにも感じられた。
風向きが変わった。
来る...
ざざっ
どこからともなく、一瞬にして目の前に現れた白装束に狐の面をつけた、おそらく少年。
面の影から赤い髪がみえた。
詩は驚くこともなく笑う。
「やっと出てきた。
視線の正体は、君だね」
狐の面で表情がわからない。
「おかしいな。
もう一人か二人、視線を感じてたんだけど...」
そう言うか言わないか、ざざっと背後に、誰かが降り立った。
振り向かずとも、式神でそれを確認する。
あ...この子...
赤い袴の巫女姿。
こちらも狐の面だ。
目の前の少年よりは年下かな...
そして間違いない。
村の入口にいた子だ。
「俺はこの先にいきたいんだけど、その様子じゃ...
そう簡単には通してくれないみたいだね」
目の前に立つ、見たことのない明るい髪色の青年。
同い年くらいにみえた。
こんな状況なのに、楽しそう...?
おかれた状況がわからないバカなのか、それとも、本気のバカなのか...
どちらでもいい。
この村への侵入を許したのでも不快なのに、頂上までこようとするなんて...
いくらじいさんが許したとはいえ...
面の奥の、目つきが変わった気がした。
強いな...
詩は、今までの経験からそう感じていた。
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