山の試練
風が、吹いた。
一連の様子をみていた影は、木から軽快に飛び降りる。
着ている狩衣と呼ばれる装束が、鳥のようにばさっと音を立てた。
「なんだ、大したことねえじゃん」
つぶやく声は、倒れた詩にきこえるはずもなく山に吸い込まれる。
「いくぞ、紅蘭(コウラン)、てまり」
そう言ったのは、キツネの面をかぶった少年。
キツネの面から赤い髪がのぞいていた。
頷くのは、少年より背の低い少女と、まだ幼い少女。
少女たちも、キツネの面をかぶっていた。
紅蘭と呼ばれた少女は、白い着物に紅い袴の巫女姿。
長い黒髪を後ろでポニーテールにし、それが風に触れ遊ぶようになびいていた。
てまりと呼ばれた幼い少女は、紅い浴衣。
その襟元につくかつかないかくらいの短く色素の薄い茶色い髪。
2人の少女は頷き、その少年の背中のあとを追う。
てまりと呼ばれた幼い少女だけ、詩を心配そうに振り返った。
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