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山の試練



詩は、険しい山道に息を切らしていた。

しかし、その自然の厳しさと同時に山にあふれる自然の美しさを感じていた。

川のせせらぎ、どこからともなく聞こえる鳥の声、包み込む風。

緑の、土の、生きているものの匂い。

村に入った時から思っていたが、ここは心地よく五感を刺激してくれる。

そんな山の頂上にいる...皆が“南雲さま”と呼ぶ人物。

志貴にも、村についたらまず山の頂上を目指すよう言われた。

そこで、南雲という男に会うこと。

それがこのアリス村にくる意味でもあり、目的の大前提であった。

正式な名は、南雲十次(ナグモ ジュウジ)。

志貴によると、姫宮ともならぶ強大な結界のアリスの持ち主だという。

そのおかげもあってか、先ほどから式神が意図せず現れる。

しかし暴走するほどでもなく、自分の一部でもある式神は踊るように、時々詩の道案内をするように、自由に動き回っていた。

式神たちも詩同様、この山を気に入っているようだ。

その山を拠点に、村を作った開祖ともいえる南雲は、村の人々から一目おかれ、信頼、崇拝されていた。

ふと思った。

南雲はなぜ、このような場所をつくったのだろうか...

祖父、東雲 時はアリスではない一般人と家庭を築き、母が産まれ、厳しい偏見の中でも非アリスとして育てた。

信じる者以外すべてを隔絶する南雲とは、正反対の道を行ったともいえる。

そんな彼らの共通点とはなんなのか。

ますます気になった。






と、そのときだった。

何か、くる...

詩は直感的にそう感じた。

何か自分に向けられる敵意。

しかしどこから向けられているのかわからない。

防衛本能で、自然と詩のまわりに式神が増えた。

警戒を強めたときだった。

どっと地鳴りの音が聞こえたかと思うと、地面が隆起し始めた。

「だっナニコレ?!

下...?!」

前後左右上空に気を張っていたが、まさか足元とは思ってもみなかった。

とりあえず、危険を感じ走り出す。

うねる大地は詩を呑み込もうとする。

そして一歩足を踏み外せば下は崖だ。

アリスの力だとはわかるが、初めてみるものだった。

そしてさらに違和感を感じる。

木々もその枝木やつるを伸ばして詩を襲おうとしてくるのだ。

「なんじゃこれーーー!!!

きいてねえよアサ婆!!!」

しかし、アサ婆の言葉を思い出す。




ー山はあらゆる手を使って試してくる...





しょうがねえ...

詩は闇雲に逃げるしかないものの、式神を使ってつるを切ったり風を起こしたりして道をひらいていく。

そうやって、どれくらい険しい山道を走っただろうか。

気が付くと先ほどの攻撃が嘘かのように山に静けさが戻っていた。

額には玉のような汗。

飛び跳ねる心臓。

身体も擦り傷だらけ。

とりあえず、水....

詩は川の音をたよりに這うように水を求めに行く。

しかし、信じられないくらいの疲労に襲われ、あと一歩のところで力尽きるのだった。






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