アリス村
「鎮まれえええええええ」
ぴたり。
そこら中に響いた地を揺るがすような声。
村人たちの攻撃は一瞬にして止んだ。
え...
と詩はその声の主を見つめる。
それは、詩の後ろにいた、あの老婆だった。
老婆とも思えないような迫力、凄み。
誰かが叫んだ。
「ア、アサ婆!!」
「なんでここに...?!」
村人たちはざわつき始めるが、詩だけは状況を呑み込めないでいた。
「それよりアサ婆、なんでそいつを庇うんだよ」
「そいつはここに来てはいけない...っ」
「黙れぇえええ」
また、この老婆が発したとは思えないような地の底から響くような声がして、村人たちは黙った。
そして、アサ婆と呼ばれた老婆は、詩と目を合わせる。
その瞳は歳を感じさせないほどするどく、ビー玉のような輝きを放っていた。
まるで、すべて見透かしたような瞳。
「...東雲 詩、ついてきな。
皆も戻れ。
こやつは正式な客人じゃ」
どうやら、この村でこの老婆の言うことは効力があるらしい。
村人はぶつぶつ言うも、「アサ婆がいうなら...」と散っていく。
「アサ婆、ついていこうか?」
若い男が寄ってくるが、アサ婆は一言「いらぬ」とはねのける。
そして皆がいなくなるとやっと、老婆は歩き出した。
はっとして、詩はそのあとをついていく。
「あ、あのっ
さっきはありがとう、ございます」
なんだかすごい人だとわかったので、自然と敬語が出てくる。
「なんのことだ...」
「いや、あのさっき助けてくれたから...」
「わしが言わんでもお前はやる気じゃった。
その覚悟、嫌いじゃない...」
「なんで俺の名前知ってるんですか?」
アサ婆はその問いに立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「その目、思い出すの...」
アサ婆は問いには答えず、ただそれだけ言った。
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