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アリス村



詩の目下に広がる、先ほどよりもずっと広い田畑と家々。

さすがアリス村というだけあって、集落は田舎とは思えないほど道路が舗装され、建物も古くはなかった。

レンガ調の街並みとどこか異国情緒のある街頭や施設、雰囲気が学園のセントラルタウンを思い出せた。

セントラルタウンと少し違うのが、一昔前のような懐かしさがあるところ。

どこか落ち着くような映画のワンシーンにありそうな街並みだった。

それが見事に日本の田園風景とマッチしているのだから不思議だ。

と、そのとき、視線を感じた。

はっとして見た木の陰にいたのは...子ども?

キツネの面をかぶっていて、顔はみえないが確かに、華奢な女の子のようだった。

しかしその子は詩と目が合ったかと思うと、すぐに姿を消してしまった。

夢かと錯覚するほどの、なんともいえない不思議な感覚だった。

気を取り直して詩は村へと足を踏み入れる。







おっさっそく第一村人発見♪

いや、さっきの子も合わせたら第二か...

そんなことを思いながら、農作業をする男性へ声をかけた。

「すいませーーん!

あの山への近道教えてくれませんかーーー?」

聞くのが一番早いだろ。

そんな軽い気持ちだった。

この時の詩の頭に、志貴の“慎重に”という言葉は入っていなかった。






詩は、この街のシンボルともいえそうな街を見下ろす小高い山を指さして言った。

声をかけられた男性はその声に振り向くや否や、顔をひきつらせる。

「お、お前!!

この村の者じゃないな?!」

そう言った途端、詩にどこからともなく向かってきたのは鳥の大群。

え...?

「待って俺は敵じゃな...っ」

言ってる暇もなく、詩は逃げることを余儀なくされた。

今のって...鳥使い...?

序盤も序盤の大ピンチ。

必死に逃げるもさっきの鳥の一部が伝達をしたのか、次々と村人たちが現れ、総攻撃が始まった。

「くそっ...なんだこれ...」

これだけの能力者に追われるが、詩は自分のアリスを未だに使っていなかった。

それには志貴とした約束が関わっていた。

詩は志貴の言葉を思いだす。






ー村の主に会うまで、その式神のアリスは絶対に使ってはいけない....

何があっても...






水使いや念力のアリスを、対アリス戦で身に着けた身のこなしだけでなんとか交わし、土地勘のない街を闇雲に走る。

アリスを使ってはいけないのは、敵として認識されないためだと思っていたが、思い返すと、何かまだ隠していることがあるようなそぶりだった。

なんで志貴さんあんなこと...

しかし、ここで志貴との約束を破りアリスを使ってこのチャンスを台無しにすることだけは避けなければならない。

今は、あの約束の意図を確認するすべもないのだから。

ここまで来たからには、なんとしてでも村の主、祖父の旧友に会わなければならない。

そんな思いだけをエネルギーに、詩は逃げ惑った。






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