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しん友へ(回想)



櫻野と昴は、手紙をもって全速力で走っていた。

早く、早く、伝えたい...このきもち...っ





バンっ

勢いよく詩の部屋のドアを開けた。

走ったから、息があがっていた。




暗い部屋。

詩は背を向けて、ベッドに横になっていた。




「いたなら、返事くらいしろよ!」

昴の声だ。

「寝てた..」

返ってくる、小さな声。

「嘘だ」

櫻野の声。

「うるさい...眠いから出てけ」

櫻野と昴は顔を合わせる。

そして、にやっとしたかと思うと、一直線に2人そろって詩のベッドにダイブした。





「うわっ」

詩が声をあげる。

「さっき寝てたって言ったならもう眠くないはずだっ」

「そうだそうだっ

起きろ詩っ」

「ばかっ

まだ病み上がりなんだよ」

と詩は身体をさすりながらも起き上がる。

「はははっ

ひどい顔」

「詩がおとなしいの、珍しー」

「だから体中痛いんだよ、ケガ人いたわれ」

そんな詩に、言い返す櫻野。

「てゆうか、お前、字汚すぎんだよ」

は?と詩。

「そうそう。

“友”って字も書けねえのかよ」

そこで詩は気づく。

「くそ!あの女みせやがったのか」

「詩言い方汚い、先生って言わないとー」

「うるせえ」

「てかよくあれでおっけーもらえたね」

ケラケラ笑う櫻野と昴。





そんな中、詩は黙りこむ。

「詩?」

「なんだよ、そんなに怒らなくたっていいだろー」

櫻野と、昴は詩の顔を覗き込む。





「ごめん...秀、昴...

俺、おまえらの手紙まで...

そんなつもりじゃなかったんだ....」

小さく消え入りそうな、でも本当に後悔している時の詩の声。

櫻野はそっという。

「俺らのだって、家族に届いてないよ」

はっと顔をあげる詩。

「先生が亡くなってから、半年かな...それくらい経っても、手紙の返事が来ないんだ」

昴も言った。




そんなこと....知らなかった...

「だからいいんだ、詩」

「僕らもあいつらのこと嫌いだから、せいせいしたっ」

隣にいる親友たち。

辛いことも3等分、楽しいことは3倍に。

詩はうん、と頷いた。

そして、また櫻野と昴は顔を見合わせる。

「だから僕らも詩に書いてきた、手紙!」

櫻野の言葉に、詩は顔をあげる。

じゃんっと広げた紙を1枚ずつもつ2人。




“有難う”


“馬鹿”




大きな声で読み上げる。

詩は嬉しいのかむっとしてるのか、入り混じった表情で、それがまた面白かった。

「なんか、漢字で書かれると余計ムカつくな、その言葉!」





その夜3人は、寮母のタカハシさんに怒られても、気にせずずっとずっと話をして、笑っていた。





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