しん友へ(回想)
先生たちが、すごい形相で駆けつける。
悲鳴に似た声で、
「東雲やめろ!」
「詩くん、やめなさい!」
という声がきこえた。
でも、こうなってしまった詩は、誰もとめられない。
今年何度目かの、非常アラートまで鳴り響く。
そのすべてが詩関係で、前代未聞らしい。
無効化のアリスの先生がいない今、結界のきかない詩は、誰も手がつけられなかった。
櫻野は、詩の足元で小さくなりながら、
「詩、やめて....お願い、やめて...」
とつぶやくことしかできなかった。
そんな中、駆けつける生徒。
高等部の制服と、中等部の制服...?
ぶわっと、視界に何かもやがかかったような...
身体が熱くなって力が抜ける感覚...
くらくらして、意識が遠のきそうだった。
これは...確か、あの人のアリス...
「詩!
アリスとめて、床に這いつくばりやがれ!!」
一際大きな声。
そしてその言葉どおり、詩は床に張り付いている。
磁石のアリスも無効にするほど強い力...
これは、あの中等部生...
「うっぐ!!」
詩はうめき声をあげるが、身体は言うことをきかないらしい。
あれは...柚香おねえちゃんといつも一緒にいた、鳴海だ...
櫻野は、ぼやける視界の中、近づいてくる生徒をみる。
アリスは...フェロモン...
そしてその後輩の、たしか名前はレオって言ってた。
声フェロモンのアリス...
どちらも、詩の先輩...特別生徒だ...
すごい...
先生たちでもとめれなかった詩を...
こんなに簡単に...
詩は未だにうめき、抵抗している。
「あーあ、ナルせんぱーい。
関係ない子たちまで先輩のアリスくらっちゃってますよ。
先輩のアリスつよすぎるから...」
そうはいうものの、レオは楽しそうだった。
「お前がはやくしないからだろ」
「まぁ、まぁ...
でも俺なら、詩だけにっと...」
レオは、制御装置のピアスを調節する。
「ってか、こいつまだ反抗しようとしてるしー
これだけやられて正気?
ほんと、後輩のしりぬぐいなんて、ごめんだっつーの」
ふぅっと、レオは息を吐く。
その目は、詩を見据えていた。
「詩、このクソ野郎、よくきけ」
その瞬間、詩の様子が変わった。
レオを、一点を見つめる。
「俺のあとに続いて言ってねー?
“ごめんなさい”、はいっ」
「ごっごめんなさ...っ」
詩の口から、同じ言葉が出る。
「うーん聞こえないね?
次はもう少し大きな声で言ってね?
“騒ぎを起こしてごめんなさい”」
にこにこしたレオの目が、怖かった。
「さわぎをおこして...ごめんなさい...っ」
レオはニコニコ頷く。
「“すべて、僕がわるいです”」
「すべて....僕が...わるい...です」
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