しん友へ(回想)
「おい詩、おまえ、字かけないんだろ?」
詩が張り付いているのをいいことに、他の生徒がちょっかいをかける。
普段、詩に痛い目をみせられている子たちで、歳は一つ上とか、二つ上。
低学年の1歳差は、かなり体格差がある。
アリスがあってもなくても、敵にはしたくない。
嫌な奴だっただけに、普段は櫻野も昴も関わらないようにしている子たち。
「お前いっつも授業サボって、バカなんだろ?」
「字かけないとかだっせー」
「ばーかばーか!」
みんな、詩をからかい始める。
「お前が土下座したら字、おしえてやるよ」
「あーでも今無理だったな!
おしりがくっついて離れないんだもんな!」
ギャーギャー笑う子どもたち。
「誰がおまえらなんかに頭さげるかよ、ばーか」
詩もむっとして言い返す。
「何言ってんだよ、かけもしないくせに!」
「俺たちは住所まで書いて、封筒にいれてもらったもんね」
みんな、各々の手紙を見せびらかす。
「そんなんじゃお前も家族に見放されるぞ」
「字も書けない子どもなんて、恥だからなっ」
「きっと家族にも嫌われて、返事なんかこないんだろー」
やばい...っ
櫻野と昴は同時に思った。
この言葉は詩の地雷になりかねない...
いち早く、櫻野がみんなの前にでる。
そして、詩の、たった今ペンを離した右手をおさえつける。
詩ははっとした。
テレポートの速度には追い付けなかった。
今しようとしたこと...櫻野は...
「詩には、僕が教える」
櫻野は一言だけ言う。
しかし、その子たちはにやっと笑い、どかなかった。
「どけよチビ!
頭いいからって調子のんな!」
「そうだそうだ!
またヒーローごっこか?」
「行平先生はころされたーとか、ありえないデマふいてんじゃねえよ」
「目立ちたがりの...」
そこまで言った時だった。
詩は小さく、「ごめん、秀..」とつぶやく。
櫻野がはっとした時には、もう遅かった。
その瞬間、教室は惨劇の場になった。
勢いよく風が巻き起こり、普通に立ってはいられなくなる。
式神が、教室中をすごいスピードで舞っていた。
当たったら、ただのケガでは済まされない。
櫻野もさすがに、頭を抱えてしゃがみ自分の身を守る。
一瞬にして、クラス中に悲鳴が響き渡った。
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