アリス村
「東雲さま、私はここまでとなります」
都内からは離れた、のどかな田園風景が広がる狭い道。
よくある田舎道に、車は停まった。
どうやら、この先にその村があるようだった。
「これ以降はお一人で...どうかお気をつけて」
運転手が深々とお辞儀する。
詩はしっかりお礼を言って、ひとり歩き出す。
付き人はひとりもいなかった。
それも、ここに来る条件のひとつだった。
詩は、志貴とのあの時の会話を思い出す。
「今まで外部との接触をすべて絶ってきたアリス村の主が、我々との面会に条件付きでこの度応じると申し出てきた。
その条件が、東雲 詩ひとりでくること。
それを破った場合、今後一切の干渉をなしとする。
ということだ。
どうする、詩」
答えはすでに出ていた。
詩の次の言葉を聞かずとも、表情だけで志貴はわかっていた。
「どうするも何も決まってる。
俺、行きます。
アリス村に!」
志貴は満足そうに頷いた。
送迎の車が見えなくなってからも、車1台がやっと通れるくらいの舗装されていない道が続いた。
両脇には広がる田んぼと山々。
のどかで空気が澄んでいて、風の音や鳥の声が心地よくきこえる。
素直に、いいところだと思った。
ゆっくりと、静かな時間が流れるのを全身で感じていた。
こんなところで、自分のことを誰も知らない人に囲まれて、すべて忘れて過ごすことができたら...
そんな考えが、頭をよぎった。
だけどすぐに、大切な人達の笑顔がよみがえる。
運命でも宿命でも、何に振り回されようが、自分の守るもの、大事なものはこの心から消えるはずはない。
これから何が待ち受けていようと、それを決して手放すことはない。
詩を信じ笑顔で見送ってくれた仲間たちを、忘れてしまうことが今の自分にとっての一番の恐怖だ。
詩は改めて、心に刻みこむ。
じじいを知る人...
そして、俺が俺のアリスについて知るための第一歩。
さらに進んで見えてきた光景。
それは詩を驚かせ、感動すらさせた。
これが....アリス村....?!
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