しん友へ(回想)
先生が亡くなって、月日が経った。
僕らは、外の学校でいう、小学1年生に進級した。
相変わらず、アリスの同級生は少ないから、初等部A組の面々は変わらない。
変わるのは、小学4年生になる年で、初等部はB組へとクラスが変わる。
今日はいつもの任務がないのか、珍しく教室に詩がいた。
でも、話しかけづらかった。
だって、機嫌がわるそうだから...
そしてさっきの授業内容も、詩にとってはよくなかった。
お昼になっても詩は机に向かっていて、居残りをさせられている。
はぁ...と櫻野はため息をつく。
「あんなの、てきとーに書けばいいのに」
「それが...できないんだろ」
昴の言葉に、櫻野は黒板を見つめた。
黒板に書かれていたのは、
“ならった字をつかって、家ぞくへ手がみをかこう”
という文字。
櫻野と昴は、詩のかいた手紙が家族には届かないことを知っていた。
だから書いている姿をみたことすらなかった。
見かねた新しい国語の先生が、
「じゃあ詩くん、先生に書いてみよっか?」
と笑顔で言うのに対しても、詩はぶっちょうづらで足まで投げ出して
「やだ。先生家族じゃねえもん」
と言うのだった。
それでもめげない先生。
「じゃあほらっ
なかよしのお友だちとかは?」
詩は今度は黙り込む。
「んーしょうがないな...
この課題やってくれないと、先生、詩くんの成績つけられないの。
詩くん、あまり授業出てないから...
ほら、この課題出してくれたら補習免除するからさ...」
大人の都合か...
こんな愛想笑いまでして。
ばかばかしいな、と櫻野は思う。
しかし、こんなに愛想のいい先生は、次の詩の言葉で顔が般若のようになる。
「最近できたカレシとイチャイチャしたくて、補習がめんどくさいんだろ。
高等部の、タナカせんせー」
ばかだな、と思った。
昴ははぁ、とため息をついた。
先生の肩には、詩の式神が張り付いていた。
というわけで、詩は課題ができるまで昼休みなし。
今のこの、ひとり机に張り付かなければいけない状況になっていた。
ちなみに国語の先生のアリスは磁石のアリス。
どんな素材でも触れたものをS極とN極にする。
詩は今、身体と机をくっつけられ、固定されているのだった。
詩の俊敏さもあれば避けれたかもしれないが、詩は授業を休みがちでこの先生とは初対面。
アリスについて知らなかったのだ。
ちょっとやりすぎともとれるが、アリス学園では生徒の力は未熟で危険とされ、多少の体罰は更生のためと見逃される傾向にある。
家族と隔離されている状況もそれを暗黙の了解と化していた。
神野の雷もそのひとつ。
ゆえに、珍しい光景でもないのだ。
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