卒業
久しぶりの再会を果たした##NAME1##と両親を思い、詩は早々にその場を去る。
そして最後に向かった人物。
「よ」
そう手を挙げたのは、翔だった。
半年しかいないのに、その制服姿はもう板についている。
ハーフアップにした赤髪も、ブラウンの瞳も、まるでもう何年も一緒にいる感覚になる。
「半年しかいなかったのに、こんなのもらっていいのかな」
翔は、卒業証書を示す。
「んなこと気にすんなよ。
学園が決めたことだし、そんな紙切れ自体に価値はないんだから」
詩らしいなと思った。
そうだな、と笑った。
「どうだった?学園」
「楽しかったよ。
想像していた何倍も...」
詩の問いに迷いなく答える。
「詩の紹介する人たち、みんな面白いし良い人だった」
だろ?と得意げな詩。
「何より、お前と一緒に過ごせたのが楽しかった。
連れてきてくれて、ありがとう」
今日だけで何度もいわれたその言葉。
何度言われたって、嬉しいにこしたことはない。
「俺も。
俺のわがままに付き合ってくれてありがとう」
詩はそう言って笑った。
「いったん帰るんだっけ、村に」
詩の問いにうん、と頷く翔。
「ああ。
いきなり飛び出して、みんな心配してるだろうからな。
じじいにも、早くここでの暮らしを話したい」
「俺も、またみんなに会いたいな」
詩はあの村を、南雲の山を、とても気に入っていた。
「またいつでも来いよ。みんな待ってる。
...俺も、帰るって言ってもお前の任務には同行するよ」
「ああ、その件は、ほんとにありがとう」
翔は、今井兄妹の捜索や詩のアリスストーン奪還に協力することを了承していた。
「今さら礼なんかいらないよ。
南雲家として、東雲家のそばに居ることは使命だから。
お互い、そのほうがいいことはもうわかっただろ」
詩は頷く。
お互いのアリスが共鳴するあの感覚。
2人しかわかりえないあの感覚。
忘れろというのが無理な話だった。
「まぁでも、しばらくは任務はないと思う。
俺もしばらく休暇をもらうからな」
詩は卒業したものの、学園には本部の関係者として籍をおくことになっている。
今井兄妹追跡など、他の任務を円滑に進めるためであった。
今井兄妹を見つけるまで、詩は学園を離れるつもりはなかった。
その中で、今回、高校長にことづかったことと、詩自身のけじめをつけるため、詩は休暇をもらっていた。
日本で名高いアリス、東雲詩は常にその動向を国に把握されるのだから、休暇の取得にすら手間がかかる。
今回も、志貴さんが動いてくれたのだから、最後まで頭があがらない。
学園を卒業したからと言って、何もかも自由になるというわけにはいかないのだ。
でも、その不自由さにも慣れたというか...
与えられた環境であがくことは、学園でも得意だったから。
「ほんとに、ひとりで行くのか?」
少し不安げな翔。
「うん。
もう決めたことだ。
それにこれは、俺自身のことだ」
大丈夫だよ、と詩は笑う。
「全部終わったら、また会おう」
その言葉に、翔は頷く。
詩もまた、次会う約束ができるのが嬉しかった。
自分のけじめ...
それは、家族。
これで会うのは本当に最後になるかもしれない。
あの別れがトラウマで、悲しくて、一歩進むのがこんなに怖いことはない。
でも、ここを乗り越えなければいけない。
秀も言ってた。
卒業は終わりじゃない。
新たなスタートだって。
じじいにも、やっと会える。
待ってろよ____
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