卒業
「おい詩!!
なーに泣いてんだよ!!」
「マジで泣いてるし―っ」
そうからかってくるのは、いつもの特力メンバー。
悪友の殿とかわいい後輩、翼だ。
「なっ泣いてなんかいねーよばーか!!」
「嘘だっ目が赤いぞーっ」
翼がおかしそうに笑う。
そうやってじゃれ合う姿も見納めか...
美咲をはじめとした特力メンバーはそう、しみじみと思っていた。
「アリス取り戻した俺に、仮にも先輩をおちょくるとかそんなことしていいのっかなー?
翼くん!!」
翼はひぃっと声をあげ、影をふんじばって詩のアリスを回避する。
「ああ殿手をかせい!
こいつ許さんーっ」
「嫌だよ俺のアリスお前らのけんかに巻き込むなよ」
殿は高見の見物を決め込むようだった。
と、そこへ...
やってきた生徒たちを見つけた殿は詩を呼ぶ。
「おい、詩~」
そこに現れたのは、危力系。
一緒に卒業するルイに八雲、そして後輩の颯、のばら、陽一。
後ろにいたのは棗だ。
「相変わらず辛気くさい空気だな~」
なんとかなんねーの?という詩だが、嬉しそうだ。
そう言った詩の言葉はあながち間違っておらず、こんなふうに危力系が集まると...
なんというかその、負のオーラというか、威圧感が周囲の生徒を遠ざけた。
翼はルイを見つけ、一目散に避難する。
「詩ちゃん。
ありがとね。
私たちがこうして堂々と...とまではいかないけど、自分のアリスを嫌われることを恐れずに、
ここに立っていられるのは、詩ちゃんのおかげだよ」
ルイは涙ぐむ。
「これから先...何があっても頑張れると思う。
詩ちゃんが、たーくさん愛してくれたからねっ」
ぎゅーっと、異常に濃いスキンシップを軽く剥がす詩。
八雲は、口数が少なくとも付き合いは長い。
その目を見ただけで言いたいことはわかった。
その包帯を巻かれた腕をとって、握る。
強く、握り返すその手に安心した。
そして向き直る。
「みんな!こんな俺が危力の総代表だったけど...
ついてきてくれて、信じてくれて...
ありがとうな!」
「う、詩兄ぃぃぃっ
詩兄がいなくなるなんてっぐずっ...おれっ」
颯はもう感極まっていた。
「颯泣くなって!
これからは棗のサポート頼むな!」
その言葉にキっと、棗を睨む颯。
「ほらほらそんな顔しなーい」
「...な、棗はやなやつだけど...
詩兄がいうなら...」
詩は満足そうに頷いて、颯の頭をぽんぽんとなでる。
ペットのように懐く颯。
かわいい後輩だと思った。
のばらや陽一にもあいさつして、最後に棗に向き直る。
「というわけで、頼んだぞっ
反抗期の思春期ボーイっ」
その言葉に颯はぷっと吹き出す。
てめぇ...と棗が炎をだし、またひと悶着おきそうだったので、それはとめる。
「詩に言われなくても、これくらい...」
「まっそうだよな、お前は心配ないな。
るかぴょんもいるわけだし。
...もう無茶すんじゃねえぞ。
先輩からはそれだけだ」
わしゃわしゃとその頭をなでる。
おっ...少し背、デカくなったか?
そんな変化も、なんだか嬉しかった。
「無茶って..それはお前もな」
言い返されて笑う詩。
「言うねえ棗」
終始詩は嬉しそうに笑っていた。
棗、お前は自分の変化に気づいているか?
お前はやさしい目をするようになった。
出会った時の、何もかもあきらめたような目を、しなくなった。
それはたぶん、俺なんかより蜜柑のおかげで....
あの危なっかしい後輩が、こんなふうに成長してくれて...
すごくうれしいんだ。
俺と、先生が築き上げた危力系を何も不安なく任せられる。
自慢の後輩だよ____
.