卒業
「秀!!」
卒業式が終わり、すぐに彼の元へとんでいった。
彼は、穏やかに笑ってくれる。
「もう、行くのか?」
寂しそうな詩。
ああ、と答える櫻野。
「すぐに向こうへ行かないと」
そうだったな、と詩は頷く。
国際アリス機関。
櫻野は見事、合格していた。
本部のアメリカへと渡り、すぐに仕事が始まるらしい。
「絶対、見つけような」
詩の言葉に、櫻野はしっかり頷く。
「今井、昴...昴...
俺たちは、何度もその名前、呼んだんだろうな。
覚えてないけど、その名前を口にするたび、なんだか懐かしくてたまらない....」
詩は、唇を噛み締める。
本来なら、今日一緒に卒業していたはずの親友....
「僕も、そうだよ。
彼がこの学園を守るため、終わらない旅に出てしまったのなら...
僕らも...一緒に出なければ。
親友と、また巡り会うその日まで、彼を、探し続ける」
櫻野の目は、真剣だった。
「先生が亡くなった時、詩が言った。
自分のやり方で動くって。
そう言った時の詩、すごく頼もしくてかっこよかった」
こんな風に櫻野に褒められることなんてないから、なんだか照れくさくなる。
「きっと、僕らが生まれ持ったアリスのように、それぞれの使い方がある。
僕は僕のやり方で、詩は詩のやり方で...
卒業した今、新たなスタート地点に僕らは立った。
先生に情けない姿見せないよう、進もう」
詩は、力強く頷いた。
「うん!
しばらく会えなくなると思うけど...
風邪ひくなよ!」
「うん...」
「外国の食事に慣れるのって大変だってきくけど、ちゃんと飯食えよ」
「うん」
「あと、仕事忙しくてもちゃんと寝ろよ」
「うん」
「あとは....そうだっ
彼女ができたら報告すること!
隠し事なしだ!」
「うん」
「ピンチの時は頼れ!
地球の裏側でも助けに行く!」
「うん」
あとは、あとは.....
だんだん、詩の視界がぼやける。
あれ....
俺、泣いてる...?
頬を伝う熱いもの。
詩はゴシゴシと拭った。
「秀!!
大好きだ!!
一緒に戦ってくれてありがとう!!」
そう言って詩は勢いよく、櫻野に抱きついた。
長かった。
今日まで本当に、長かった。
学園を変えるため、自分のやり方で動くため...
目標は同じ。
それだけを支えにして、別々の道を選んだ。
大好きな親友と距離をとった。
本当は、つらかったこと、苦しかったこと、たくさん聞いてほしかった。
嬉しかったことも、楽しかったことも....寝る時間が惜しまれるくらい、たくさんたくさん話をしたかった。
だけど、それをぐっとこらえて、我慢した。
なぁ、秀...?
俺たちの努力は、報われたのかな?
ー報われてる。僕が保障する。
テレパシーで語りかける櫻野。
もっとたくさん、話したかったよ、秀。
ーああ、僕もだよ。
「詩、僕はね君がこうして頼ってきてくれることが嬉しい。
あの時無力だった自分が悔しかった。
詩の背中しか見えなくて...
でも今日、こうやって一緒に立てて嬉しい。
どんな時でも、僕は詩の味方でいる。
ずっと変わらないことだ。
僕たちの希望でい続けてくれて、ありがとう。
生きててくれて、ありがとう____」
学園の総代表と、学園一の人気者。
その抱擁は、みんな注目していた。
みんな、何かとても強い絆のようなものを、2人の間に見た気がした。
櫻野はふっと顔をあげる。
2人だけじゃない、温かい気配がもうひとつ。
気のせいだろうか...昴...
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