卒業
季節は廻り、あっという間にその日を迎えた。
桜の花が開く、3月。
今日は、アリス学園の卒業式____
特に専科2年を卒業する高等部生たちは皆、並々ならぬ思いを抱えていた。
幼いころから周りと隔離され、家族と会うことも許されずに育ってきた学園を、とうとう巣立つこの時。
これからは、守ってくれる学園もない。
各々が、夢に向かって別々の道を歩み始める。
毎日のように顔を合わせ、家族よりも長くいた仲間とも別れる時。
先輩、後輩、先生たち...
多くのアリスと触れ合ったこの学び舎。
たくさん不満はあった。
寂しい思いもした。
でも、一緒に乗り越えてきた仲間は、何よりの財産だ。
そう、胸を張って言えるこの今がうれしい。
それでも、まだ俺たちは埋まらないパズルを完成させなければいけない。
今井兄妹...
蜜柑...
失ったアリス...
欠けたパズルのピースを探し出すまで、本当の卒業とは言えないけど...
今日という日、こうやってたくさんの仲間が笑顔でお祝いしてくれるのは嬉しいこと。
先生、見てくれていますか?
先生がつくりたかった学園になっていますか....?
先生がやりたかったこと、できてますか....?
俺は、ちゃんと先生の意志を受け継ぐことができていましたか?
俺がこうして、仲間に囲まれて卒業できるのも、先生が仲間の大切さを教えてくれたから。
ありがとう、先生_____
いろいろな想いを馳せながら、卒業式へとのぞんだ。
壇上では、アリス学園を首席で卒業する櫻野が、答辞をよんでいる。
最優秀生徒賞にも選ばれ、表彰された。
そして、詩もまた、学校長賞という賞も高等部の校長からいただき、櫻野とともに壇上で表彰された。
これは毎年、高等部の校長が選ぶもので明確な規定は示されていない。
だが、みんな納得のものだった。
「学校長賞
東雲 詩
貴殿はアリス学園の発展に
多大なる尽力と功績を残したことを称え、
ここに表する」
胸を張って、詩は受け取る。
校長は、マイクを通さない声でそっという。
「君のような生徒がいたこと、私は決して忘れないだろう。
君のことを、誇りに思う。
君がアリス学園にいてよかった。
ありがとう」
その笑顔が、先生と重なった。
実の兄だから、似ていて当然なのだけど、先生のお兄さんからもらったその賞は、何か特別のように思えて、嬉しかった。
そして、とても誇らしかった。
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