このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

抱きしめて



「わぁーーっ

よかった間に合ったーー!!」

詩の一際大きく、嬉しそうな声。





アリス祭4日目の最終日。

日は落ち始め、間もなく後夜祭がはじまるところだった。

あれだけの任務があって、集中力を削りアリスを酷使したのに、詩は元気だった。

本来ならばもう少しゆっくり戻ってもよかったのだが、詩がアリス祭に出たいと言ってきかなかったのだ。

実際、命を削るアリスということもあって、医師からは安静にと言われていたのに...

それでも、急な任務で姿を消した詩を心配していたみんなの目の前に、なんでもないかのようにあらわれる詩。

そこには感心する翔だった。






「ということで、後夜祭は##NAME1##といるって決めてるから翔はみんなと楽しんでねーっ」

上機嫌な詩に、あーはいはい、と翔は適当に返事を返す。

殿が前に、彼女といるときのあいつ超うぜえから気をつけろ、と言われたのを思い出した。

るんるんと、礼装した詩は彼女を迎えに行ってしまった。





翔は正直任務の疲れもあって、ひとけのないところに腰をおろす。

悔しいが、こと任務への慣れは詩が上だと認めざるを得ない。

幼いころからあんな...

ぎりぎりの駆け引きの場にいたなんて。

大人たちの私利私欲、汚い部分を見て、それから自分の手も紅く染める...

相当な精神力じゃなければ、つとまらなかっただろう...





園部に尋問する詩の目は、翔ですら恐怖を感じた。

詩は、“命拾いしたな”と言っていたが、もし、園部がその詩のアリスを使っていたら...

詩、お前は園部にどんな裁きをくだしていた...?

十分、敗北者の目に堕ちたあいつを...さらにお前は...

その時、俺は詩を....

止められただろうか。

...いや、止めなければならない。

いつか、そういう日がくる。

その時のために、俺はもっと、強くならないといけない_____









「人でも殺しそうな目だな」

そばに、いつの間にか人がいて、はっと顔を上げる。

そんな縁起でもないことを言った人物は...

紅い、切れ長の瞳がそのアリスのよう。

日向 棗...

翔はふっと緊張がとけて笑う。

「物騒な言い方するなよ...」

「冗談だっつの...本気にすんなよ」

「冗談ならもっと冗談っぽく言えよ」

ふぅっと、翔は息を吐きだす。




棗とは、特力の出し物の準備の時に、強制的に詩に手伝わされたもの同士、なんだか心が通じ合っていた。

「どうだった?

特力の出し物...」

「別に...普通なんじゃね?

翼と殿にこき使われたのは腹立つけど...」

「でも手伝ったんだ、いいやつだなお前」

翔はくすっと笑う。

棗は少し気に食わない様子だ。

「任務...心配だった?」

棗の心を見透かして、翔は言う。

「...最近はなかったからな。

急だし、久しぶりだったし...」

「そんなに頼りないの?

お前の先輩」

そう、少しいじわるを言ってみる。

「そんなんじゃねえよ」

「まあ棗...外の任務禁止中らしいしな。

いてもたってもいられない気持ちはわかるけど、今は素直に先輩にしたがっといたほういいんじゃないの?

こうして、学園を任せられる後輩がいるから、詩は気兼ねなく外で任務できる。

もうすぐ、卒業だし...」

卒業...

その言葉が、現実味を帯び始める時期だ。

5歳の時から、15年。

ずっと学園にいた詩は、もう半年もしないうちに卒業する。

棗は、詩が指名した後任の危険能力系の総代表。

詩が、安心して学園を出られるように...

そう思って引き受けたのは、言ってやらないけど...

なぜかこいつ、南雲 翔には伝わってるらしい。

「詩も、いい後輩もったよ...」

翔がそう、まっすぐ言うから、棗は目をそらしてしまう。

「あいつには、何度も救われたから____」

棗はそう、空を仰いで言った。





.
1/4ページ
スキ