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手がかり



「“アリス村”ってあの...」

詩は、依然話に聞いたことのあるその村について思い出していた。





「アリスだけが住み、日本で治外法権が黙認されている事実上の完全自治区域...」

知っているのは、その程度だった。

志貴は頷く。

「その村の人たちは秘密主義で、たとえアリスであろうと近づくことさえできない、謎の多い村....

そう、きいたことがあります」

学園内外の裏事情に精通する詩でも、その全容は知らなかった。

「そうだ」

志貴の静かな瞳に、詩は目を細める。

「志貴さんは、その村についてどこまで...」

志貴はゆっくりと口をひらく。

「実は、これは国内でも知る者が限られることだが...

その自治区の頂点に立ち、その土地を治める者が、僕や姫宮と血縁なんだ」





「え...?」






ええええ?!

どんだけすごい血なの志貴さん!

詩は開いた口がふさがらない。

「しかしながら、その主とは姫宮でさえ半世紀にわたり連絡をとらない間柄。

僕にいたっては関りすらない」

淡々と話す志貴。

住む世界の違いを思い知らされる。

「アリス村は、同じアリスを敵対視しているのですか?」

疑問を、志貴へと投げかける。

「正確には、日本政府への不信だ。

今や政府の手駒として欠かせないアリスの存在は、簡単に仲間とは言えないのだろう。

何せアリスは、その能力が何かわからない以上、一般人よりも小細工をされたら厄介だからな」

「そんな村の主が、俺のアリスとなんの関係が...?」

志貴はまっすぐ詩の目をみつめて言った。





「そのアリス村の主は、君の亡きおじいさま、東雲 時の旧友だ」






「え...」

初めて聞くその情報に、詩は戸惑いを隠せない。

「長らくこちらの交信に反応はなかったが、今回のアリス学園の体制の変化と、東雲時の死、そしてそのアリスを継承する君の存在を明かしたところ、今まで音沙汰のなかったあちらから、初めて返事がきた」

なぜ...このタイミングで...

詩の疑問は深まるばかりだった。

「東雲 時の全盛期は、その時代、日本で最も有名なアリスのひとりとして名があがっていたほど。

そのアリスと任務遂行の精度は高く評価されていた」

「じじいがそんなにすごかったなんて...」

詩は時を思い出し、言葉がつまる。

時を思い出していつも浮かぶのは、あの孫への愛情があふれる笑顔と、神社の雑務をゆっくりとこなす老体だった。

「君のおじいさまの全盛期を共に過ごし、共に鍛錬した人ならば、何か君の疑問解決のヒントをくれるかもしれない」

小さな光は確かに見えた。






「そしてそれに伴い、高等部校長から君のご家族について...話しておかなければならないこと、そして確かめてほしいことが出てきたとおっしゃるので、この場にお呼びした」

目の前に佇むのは、先生とよく似た、でも雰囲気は全く別の、高等部校長。

詩は、首をかしげる。

アリス村...じじい...そして家族....一体なんのつながりが....?






詩は、高等部校長行平と向き合った。






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