共闘
「よく言葉をえらべ...」
詩の一際低い声。
「俺のこのアリスを、誰かに向けて使ったか?
....式神のアリスで、誰かを傷つけたか?」
園部は、ふるふると首をふる。
「つ、使ってない」
「本当か!?」
詩のもつ式神が、うすく園部の首元を切りつけ、紅い血が一筋たれる。
「ほ、本当だ!
わしはコレクターだ。
第一、お前のような者のアリスを操るなんて常人にはできない。
ましてやわしみたいな非アリスにはできぬ。
コレクションだって、わし以外他の者が触ることなど許していない。
嘘などつかぬ!!」
静かな間...
ぱっと、詩は園部を離す。
「命拾いしたな...
お前が愚かな凡人でよかったよ」
詩はただその一言だけ言って、翔とともにその場をあとにした。
もう二度と、その目を園部に向けることはなかった。
園部は呆然と、2人の背中を見送ることしかできなかった____
2人が去って、どれくらい経っただろうか。
ずっと、息をするのを忘れていた気がする。
そして広い部屋、自分がひとりなことに気づく。
ぐちゃぐちゃな部屋、いつも従者がいた屋敷は、とても静かだった。
そんな屋敷に、園部の絶望に満ちた叫び声が響いた。
自分は、ただの凡人にすぎなかった。
食物連鎖の頂点に君臨していると勝手に思い込んでいた。
愚かだった。
今、自分に何が残っただろう...
ああ、何も、何もない...
最初から、何もなかったのだ。
自分ひとりでは何もできない老いぼれ。
今まで、自分は何をしてきたのだろう...
アリスじゃない自分を受け入れることができずに、アリスに執着し続けた結果がこれだ。
久しぶりに泣いた____
おんおんと、泣いた。
拳をたたきつけ、泣いた。
アリスがないことがこんなにも惨めなのかと泣いた、幼少期を思い出す。
そうして、あの時、ただひとりだけ、やさしく包みこんでくれた母の手を...
その手を振りはらったことを....思い出していた。
あの時、素直に愛情を受け取っていれば、未来は変わっていたのだろうか...
園部の泣き声が響き渡る屋敷を出ると、空は晴れていた。
雨が降りそうだったのに...
「あのじじいも、結局可哀想だ」
詩の心中は複雑だった。
アリスがあるとかないとか関係ない。
アリスという能力がある限り、こうした苦しみの連鎖は終わらないのかもしれない。
「よくやったよ、詩。
俺たちの勝ちに、かわりない」
翔は手を差し出す。
詩はにっと笑う。
そして、ぱんっと、その手に合わせる。
乾いた気持ちのいい音が、響き渡った。
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