共闘
「ち、地下にテレポートできません!!」
慌てた園部の従者のアリスたち。
「バカ者!!
南雲の結界を前にアリスなどカスだ!!
武器をとってその足で地下へ向かえ!!」
一際大きな怒声が響いた時だった。
「その必要はないよ」
冷たく響く声。
詩と翔が、いつのまに地下から戻っていた。
その冷たい瞳に、皆怖気づいてしまう。
これが、式神使い東雲詩...
獣に睨まれた小動物のように、本能的に皆、危険を悟る。
「詩、タイミングは合わせる」
翔もそう言って、腕を前に伸ばす。
ぶわっと風が巻き起こった。
「ああ、それじゃさっそく」
詩はぽんっと、自分のアリスストーンを放り、それをキャッチ。
その瞬間だった。
ひと際大きな竜巻が起こる。
翔の風との合わせ技。
式神が目に負えないスピードで部屋を飛び回るのだから、たまったものじゃない。
一瞬でも触れれば、皮膚が裂ける。
皆、壁側に張り付くだけで精一杯だった。
「お前たち、何をしている!!
撃て!!撃てぇ!!
敵は目の前にいるんじゃぞ!!
この腰抜けどもめ!!」
園部は壁にかけてあった猟銃をつかみ、発砲。
しかし、詩にあたることはなかった。
「そんなもん、当たるかよ糞じじい」
耳元で地の底から響くような声がした。
「い、いつのまに...っ」
詩は園部の枕元にいた。
そして鋭利な式神をその喉元にあてる。
園部の身体は震えだす。
死を、悟った。
生まれてこの方、味わったことのない恐怖。
圧倒的強者を前に、ひれ伏さなければならないこの世界の摂理。
自分がその、頂点にいるものだと勘違いしていた。
いつのまに、式神の竜巻は止んでいた。
皆、腰を抜かしていた。
動くことも許されないような圧倒的支配感。
翔もまた、冷徹な口調でいう。
「テレポートの能力者が数人いたな。
アリスを使うことを許可しよう....
そこの園部以外、失せろ!」
はっはいぃぃ....
気の抜けた返事が聞こえたかと思うと、シュッシュッとテレポートの音がして、あっという間に、皆いなくなる。
「おっおまえら!待てぇ!!」
間抜けな園部の声が、部屋に響いた。
「おい、誰がしゃべっていいと言った。
今お前の一挙手一投足はこの俺に委ねられてることを忘れるな。
これは交渉じゃない。
俺による、一方的な尋問だ」
詩は、園部に馬乗りになる。
「ひとつめだ。
この屋敷にある俺のアリスはこれで最後か」
詩は、力が抜け、園部の手から離れた自身の石を体内に戻す。
園部は震えながら頷く。
「その答えに偽りがないと信じて、ふたつめだ。
他の俺のアリスはどこへやった?!
これですべてじゃねえだろ!!」
詩は、園部の胸倉をつかむ。
何がおかしいのか、園部はふと笑う。
「答えろ!!」
「この期に及んで嘘をつくほどわしもばかではない。
海外に...売ったよ。
アリスストーンのコレクターは、国内にとどまらない。
特にお前のは、いい値がついた...」
詩を、挑発したつもりだったが、怖いくらいに詩は静かだった。
少し下を向いたかと思うと、ぱっと顔を上げた。
ミルクティー色の髪の奥。
グレーの瞳は一際暗かった。
こいつ、本気だ...
修羅場をくぐってきたからこそわかる、本当の恐怖。
詩は静かに言う。
「三つ目。
これで最後だ。
よく、言葉を選べ....」
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