共闘
少し前、地下へと向かう2人。
「話のなげぇじじいで助かった」
「ああ、向こうは俺たちを簡単に殺したくはないだろうからな」
そういう翔は、詩の式神に内心、感心しているところだった。
詩が怒り、暴走して式神が舞った時、すでに皆詩のアリスにかかっていた。
皆が見ていたのは幻覚。
惑わし式神の応用だった。
それができたのも、翔の結界があったから。
高度な幻覚を見せることができたのは、紛れもなく結界の恩恵だ。
実際、あの時怒ったのは本当。
だけどすぐに冷静でいられた。
アリスに集中できた。
今までの自分なら、アリスをただ暴走させ、感情のままに相手を切りつけていたに違いない。
でも、今回は違った。
詩はちらりと隣の翔を盗み見る。
やっぱ、こいつすげぇ...
「ここか...」
翔はつぶやく。
「うわぁ...悪趣味...」
詩が顔を歪めるのも無理はない。
園部のコレクション部屋は、長年集めてきた古今東西の珍しいものであふれていた。
その中でも、臓器のホルマリン漬け、本物の皮を使った絵画、拷問器具、改造武器など、アリス以外にもありとあらゆるコレクションがあるようだった。
そしてその部屋の一角。
薄暗い地下なのに、一際明るいそこ。
吸い込まれるように詩は進む。
アリスストーンが、きれいに並べられていた。
その色、形はさまざま。
数えきれない量。
それが自然に発光するのだから、思わずみとれてしまう。
純粋に、きれいだと思った。
「よくこんなに集められたな...」
翔の顔は険しかった。
アリスストーンなんて、アリスにとっては命のようなもの。
多くが、婚姻の印や、大切な人のためにそれを結晶化する。
ほいほいと簡単につくるものじゃない。
それが今ここにこんなに...
園部は一体どんな手を使って...
考えるまでもない。
卑怯で卑劣で、人道で、手段など選ばなかったに違いない。
脅し、拷問、闇取引、窃盗...
考えられることすべて、あてはまるのだろう....
詩はそっと、その無数にきらめく命の結晶の上に手をかざす。
深呼吸し、目をつむった。
青く、いや...その中でも濃い青色、藍色の石が詩に吸収されていった。
翔にもそれは感じられた。
こいつ...今まで本調子じゃなかったのに、あんな強いアリスを使えていたのか...
恐ろしい、そう思ってしまう。
そしてどんどん、詩の存在感が増すことに気づく。
半分以上、戻ったように感じる。
圧倒される詩の気配。
しかし一旦それも落ち着いた。
ふぅ...と長い息を吐きだし、自分の身体を確かめるように拳を握りしめる詩。
「やっと、やっとこの感覚を取り戻せた...っ」
そう、詩が言った時だった。
上から、耳を塞ぎたくなるほどの銃弾の音が聞こえた。
2人ともはっとする。
「気づいたな」
詩は言う。
「やっぱ正面突破は免れないか」
翔の言葉に頷く詩。
「心配すんなって、アリス取り戻した俺にもう敵はいない!」
ぶわっと、詩のまわりに式神が舞う。
ミルクティー色の髪がゆれる。
とても、頼もしい背中だと思った。
.