共闘
裏手にも数人護衛はいたが、正面ほどではない。
詩と翔は目配せする。
詩はさっと式神を舞い踊らせ、相手が気づく間もなく、式神をその体に張り付けた。
“服従の式神”
男たちはどさどさと、声をあげることなくその場に倒れこんだ。
知ってはいたものの、その式神の多芸さには驚かされる。
こんなにいっぺんに式神を操るなんて...
式神のアリス自体もすごいが、一朝一夕でできるコントロールではない。
今まで踏んできた場数は、翔の想像には及ばないのだろう。
そう思わせられた。
「詩、わかってると思うけど...」
潜入の前に、念を押す翔。
「わかってる。
最優先事項はアリスストーンの奪還。
無駄な戦闘はしない」
その言葉に、翔は頷く。
大丈夫、詩は冷静だ。
そしてこの、式神のアリスがあればその任務は十分可能。
今見た服従の式神が鍵を握るだろう。
なるべく、犬型の式神は出さない方向でいきたい。
あれは自分が結界でサポートしたとしても、詩の負担が大きいことに変わりないから。
詩の合図とともに、中へと入る。
ここまでは順調。
人気のない廊下を静かに進む。
目当てのアリスストーンは、地下にあるコレクション部屋にある。
そこに行くには、園部の部屋にある隠し扉から行くしか道はない。
まずは、1階奥の園部の部屋を目指す。
ボディーガードとは接触しないようにあゆみをすすめ、部屋の前のボディーガード2人も、服従の式神で意識を乗っ取る。
倒れられると他にバレるので、立ったままいてもらう。
ここまで、怖いくらいに順調だ。
不穏な空気はぬぐえないけれど大丈夫、手筈通りにすれば問題ない。
2人は顔を見合わせ、部屋に乗り込もうとした時だった。
ギィイ....バタン....
開けようとしたその扉が、触れる直前で何の前触れもなく開いたのだ。
はっと気づいたときには、もう遅かった。
テレポートで現れた男たちに周りをあっという間に囲まれ、中からも無数の銃口がこちらに向けられていていた。
一瞬の出来事に、成すすべもなかった。
「ようこそ。
待っていたよ、君たちを」
中央の大きなベッド。
上体を起こしてこちらを見つめる老人がいた。
周りを、護衛が固め、近づけそうにはなかった。
「園部..っ」
詩は鋭く睨みつけるも、これだけの敵を前に、両手を頭上にあげるしかなかった。
翔も、同じようにする。
今ここで抵抗しても無意味だ。
作戦は、すべて筒抜けだったというわけだ。
「わしを誰だと思っておる。
奇襲のための少数精鋭だと思うが、迎え撃つ準備ができていれば、何の問題もない」
園部の目は、野心に満ち、鋭く光っていた。
この目を、俺は知っている...
自分の目的のためなら、どんな犠牲もいとわない目だ。
心底、吐き気がする。
詩は、久遠寺を思い出していた。
園部はにやりと笑みを浮かべる。
「久遠寺の失脚は誤算だった...
あいつは頭が切れるし、欲しいものを手中に収めておく労力をおしまなかった....
本当に、あいつがいなくなって残念じゃよ。
だがあいつはわしに、思わぬ産物を残してくれた...」
園部のその手には、詩のアリスストーンが光っていた。
愛おしそうに、その石をなでる。
「汚い手で俺のアリスに触んじゃねえ!!」
ぶわっと、詩のまわりにアリスが舞った。
やばい、と思った翔は「詩!」と叫ぶ。
しかし、詩は暴走寸前にみえた。
でも、ちゃんと戦っている。
自分の中のアリスと...
「やはり生で見ると迫力が違うのお!」
園部はぎらついた眼を輝かせて言う。
「戦後、日本を復興するために東雲と南雲に手を差し伸べた。
しかし、お前たちはわしの手を払った...
そんな東雲と南雲が、今目の前にいるなんて...
にわかに信じがたいよ。
なに、わしは無慈悲ではない。
さぁお前たち、交渉といこうか____」
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