共闘
「やっぱ、東京より寒いな...」
黒いフードのついた防寒具を、一層肌に密着させる詩。
吐きだす息も白かった。
目立たぬように注意をはらいながら、案内役について進む詩と翔。
うっそうと茂る森の中。
霧が、深くなってきた。
「あそこです。
あれが、園部の別荘です」
いきなり開けた視界。
そこは湖畔で、対岸に大きな建物のようなものがみえた。
詩はよく見えるようにと、フードを外す。
「あれが...」
同じようにした翔もそう声をもらす。
「おもったよりでっけえな」
詩の言葉に翔は頷く。
今にも雨が降り出しそうな天気のせいもあり、洋風の造りのその館は、不気味な雰囲気だった。
「私の案内は、ここまでです。
幸運を祈ります」
案内役の言葉に頷き、お礼を言う。
詩と翔の2人の力、奇襲をかけるという点において、少数精鋭でいくのが妥当というのが最終判断だった。
時間をかけて練り、準備をした綿密な作戦でないぶん、余計な兵力は統率を乱す。
これが今の状況的にベストだった。
「あそこから回った方よさそうだな」
翔の言葉に頷く詩。
「こっからは結界はるから」
そう言われ、気を引き締める詩。
思えば、初めてこんな大きな任務に翔とあたる。
東雲と南雲の前哨戦だ。
そして、失敗は許されない。
アリス村で培ったものを、発揮するとき。
全神経を集中させた。
もう、自分のアリスにのまれるような自分じゃない。
厳しい訓練にだって耐えたし、隣には翔がいる。
ひとりじゃない。
式神から情報を得る詩を先頭に、音もなく走る2人。
その集中力はまさに、狩りをする獣のようだった。
園部の別荘に近づいた2人。
詩の式神の偵察を待ちながら、息をひそめる。
「思ったより、警備はうすいな....」
翔がいう。
正面には数人の護衛がいるが、なんだかやる気のなさそうな雰囲気だ。
「まぁ、今日俺たちが奇襲かけるなんて誰も思ってないだろうからな」
翔はそうだな、と頷くも何か少し、不安を感じていた。
「裏口..食糧庫か...
そこからなら入れそうだ」
詩は偵察を終わらせていう。
「了解、裏手にまわろう」
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