掴んだもの
「本題に入るよ、詩」
やっと場が落ち着いたところで、鳴海が言う。
翔のほか、アリス犯罪捜査官も2名同席していた。
詩も任務で何度か一緒になったことがある人たちでもあった。
「これが、押収物の中にあったものです」
捜査官が取り出したもの。
詩は静かに見つめる。
翔にもそれは、すぐにわかった。
「触れなくてもわかる。
間違いない。
俺の、式神のアリスストーンです」
やはり、と捜査官は頷いてその藍色のストーンを詩へと渡す。
それを受け取ると、すぐにその石は淡く光って詩の身体に吸収された。
翔は、安堵していた。
でも、詩は少し複雑な顔。
「あの...すみません。
押収したのって、このひとつだけですか」
詩がそういうのも、前初校長久遠寺に奪われたアリスは10を超えていた。
これまでの任務で、闇取引に使われていたアリスストーンを、数個回収はできたが、世にばらまかれたストーンはまだまだある。
「今回押収できたのは残念ながら、このひとつだけだ」
その言葉に、少し晴れない顔の詩。
「アリス商品の違法取引を取り締まっていた時、偶然出てきたんだ。
でも、そこから思いがけない手掛かりを得た」
その言葉に、詩はぱっと顔をあげる。
「このアリスストーンを所持していた容疑者に、売買元を聞きだせたんだ」
「それは....!」
詩の前に、捜査官は一枚の写真を出す。
そこには、長い白髪の年老いた老人の姿。
「園部 幸蔵。
業界じゃ有名な、アリスマニアだ」
「アリスマニア?」
翔は首をかしげる。
「ああ。
アリスはその能力の希少さ故、コアなマニアが多いんだ。
合法なアリス商品のコレクターは何の問題もないが、最近は非合法なコレクターが増えてね。
まさにアンダーグラウンドで取引がさかんなんだ。
そこで最も高く値が付き、マニアもこぞって手に入れたい一番が、アリスストーンってわけだ。
アリスという能力を具現化した結晶であり、さらに宝石とは似て非なる輝きを放つ」
「...この、園部っていうじじいが俺のアリスをもってんのか」
「ああ。
取り調べた話によると、初校長から高値でほぼすべてを買い取ったという証言もとれた」
「じゃあ!」
詩が、そう意気込むのもわかるが、捜査官は神妙な顔つきだった。
「この園部、政界や国内外の企業でも名を聞かせる、影響力のある人で。
マフィアや政治家もバックについてる。
一筋縄ではいかないんだ」
「そんなの関係ねえよ!!」
詩は、唇を噛み締める。
自分の、自分のアリス...自分の一部なのに....っ
「園部の名前が挙がった時からもうすでに、上から圧力がかかってるんだ。
このまま押し通しても、必ず邪魔をされる。
邪魔をされるだけではまだいいが、相手は闇の世界の住人だ。
常識はまかり通らない」
「...そんなの、許されてたまるか」
はっと、詩が顔をあげると、珍しく翔が怒りをあらわにしていた。
「それがなんだっていうんだ。
俺たちにだってそんな常識、通用しねえよ」
詩はふっと笑う。
「そういうことだから、ナル、捜査官さんっ
俺たちは今すぐにでもその、園部っていうじじいのところに殴り込みにいくよ」
はぁ...やれやれという顔の鳴海の表情をみるに、こうなる大方の予想はついていたようだ。
捜査官は目を見合わせる。
「園部のコレクションの大半は、北海道にある別荘の地下に、厳重な警備で保管されているらしい。
そして今、園部はその別荘に住んでいる。
最近は体調がよくないらしいからな」
なんだそれなら、という詩をさえぎる。
「園部が動けないぶん、まわりのガードはより固くなっている。
アリスのボディガードやマフィアを多数雇っているらしいからな。
一筋縄ではいかない相手に変わりはない」
そんな絶望的な状況に見えても、詩と翔は顔を見合わせて笑っていた。
「俺たち前に、数なんて関係ないね」
「アリスだって、使えなきゃ意味がない」
高い攻撃力と鉄壁の守り、この2人がそろったからには、無敵だった。
.