掴んだもの
「なぁお前、このままどうすんだよ」
初めてにしては安定の飛行だが、徐々に近づく本部を前に、嫌な予感は再び訪れる。
「まぁみてなって」
詩はそう言って、器用に式神2体を狙いを定めた本部の部屋へと飛ばす。
その式神は、その部屋の窓の薄い隙間から入り込み、内側から鍵を開け、ぱっと窓を開け放つ。
詩はどやっている。
....え、まさか、これで終わり?
「ねぇ、そろそろスピードゆるめたほうが...」
「あ...」
詩がやべっという顔をした時には遅かった。
ドガッシャーーーーン!!!
派手な音とともに本部8階の部屋へなだれ込んだ詩と翔がのった紙ヒコーキ。
窓は割れずに済んだが、利口な登場の仕方ではなかった。
「ってーな!
てめえもっと考えてやれよ!!」
「う、うるさいなぁ!!
てか風使えんならそれでなんとかすりゃよかっただろ!!」
「はぁ?
んなことできるかよ!
つうかこの場面で新しいこと試しすぎ!!」
「ああうるさいってば!!
かっこいいからよかっただろ?!」
そう言った、詩特性の紙ヒコーキは衝突の衝撃で形が崩れ、どんどん式神へと分裂し、消えていく。
あああ、と惜しむ詩の声と、ぱんぱんっと、制服を整える翔。
そこでやっと、ただならぬ気配を感じた。
「ねぇ、君たち?
何してくれてんの?」
詩にとっては聞きなれた声。
振り向くのも怖いが、振り向かざるを得ないこの状況。
恐る恐るみた鳴海の顔は世も末。
笑顔が、怖いくらいに引きつっていた。
「ほぉ...おまえら、そんなにフェロモンの餌食になりたかったか...」
詩の顔も恐怖で引きつる。
「おい翔、俺にも結界はれよ」
小声でいう詩に、却下、という非情な言葉。
「なんでぇ!!」
「あのアリス強い...自分の身が優先...」
捨てた!!
こいつ!!
仲間を切り捨てたぁぁぁあぁあ!!
しかし結局は、鳴海が岬の温室から拝借したムチマメで拘束され、一発ずつげんこつを食らって落ち着いた。
鳴海とともにいた、アリス犯罪捜査官は、誰よりも腰を抜かしていた。
「ここ、8階だよ?!
なに?!
なんなの君たち?!」
そんな中、詩は涙目になりながら、式神に手伝わせ部屋の修復を行っていた。
「至急って言ったのナルじゃんかぁ...」
「なんか言った?詩くん」
いいえ何も...
自分の行いを久しぶりに反省した詩だった。
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