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手がかり



学園の外の世界をみるのは、任務以外では初めてと言っても過言ではない。

5歳のあの日、いきなり日常と大切な家族を切り離され、孤独の戦いを強いられた。

一度は恨んだ自分のアリス。

しかし、周囲が俺を、俺のアリスごとひっくるめて愛してくれたから、今はしっかりと地に足をつけて自分の道を歩むことができている。





窓の外の景色は、目に焼きつける暇もなく流れ去っていく。

すれ違う人々の表情なんてわからない。

それでもひとりひとりにストーリーがある。

俺は俺の物語を進めるために、向き合わなければいけないことがある。

知らなければいけないことがある。








目的の場所へと向かう車中、詩はこれまでの経緯を思い返していた。

初等部校長をその権力の座から引きずりおろし、学園の平穏を取り戻したあの日。

それはみんなの努力と絆の賜物だったが、それと同時に多数の犠牲を払った。

過去まで遡れば行平の死。

日向兄妹とその家族を引き裂いた火災。

そして鋭利な棘の茨で締め付ける任務の数々。

蜜柑と母柚香の再会で、一筋の希望が見えかけたときの、柚香の死。

奪われた詩のアリス。

一度とまった詩と棗の心臓。

また動き出した奇跡とその代償。

謎を深める今井兄妹の存在。

そして、蜜柑との離別。

ここまでくるのに、多くの人が苦しんだ。

でも決して皆、あきらめなかった。

屈しなかった。

これからもこの平穏を守り続けなければならない。

その思いは皆、固く一緒だった。








「東雲 詩。

今回君を呼んだのは、今井兄妹のことではない。

君自身についてだ」

今井兄妹の存在で対応に追われていた志貴も、今わかる限りの情報を得たことで大方の今後の方向性が決まり、落ち着いたようだった。

「君からの依頼があったことを、先延ばしにしてすまなかった」

志貴は、詩が待ち望んだ答えを持っている。

根拠はないが、その時一瞬でそう感じたから、すごく緊張した。

「いえ、志貴さんが忙しいことはバカな俺でもわかりますから」

学園中の注目を一手に引き受けたのが詩なら、志貴は学園外から今回のことについての説明責任を一手に引き受けていた。

相手が生徒たちとは違い、一筋縄ではいかないことは目に見える。

それでも志貴は「問題ない。私の業務だ」と平然に言ってのける。






「それで、なんで高校長まで...?」

詩はその異様な光景に目を疑っていた。

公の場にほとんど顔を出さない高等部校長が、志貴とともにその場にいた。

「そのことについては後で話すとして、まずは先日の君の疑問について解答しよう」

詩はごくりと、のどが鳴るくらいつばを飲み込んだ。





「志貴さんならわかるはずです。

じじいのアリスと、俺のアリスの違いについて...

同じ式神のアリスなのに、あのアリスストーンは俺のとは違った」

今回の話の核心だ。

志貴は頷く。

「ああ。

それは僕も感じていた。

色、純度、もつだけで伝わる、その石のパワー...

それは君のアリスに関わらず、今までさまざまなアリスストーンをみてきたが、そのすべてに勝るできだった。

感動すら、覚えた」

志貴がこんなに賞賛するのは非常に珍しかった。

それだけで、すでにあのじじいのアリスストーンがいかに特別だということは証明されたと言ってもいい。

「...君の疑問は、そのアリスストーンが、君自身にも作れるか、ということだったね」

詩はその先の言葉を息をのんで待つ。

「答えは、“Yes”だ」

「じゃあ!」

詩はその答えとともに前のめりになることを抑えられなかった。

「どうやったらいいか、志貴さんは知ってるんですか?」

志貴は静かに頷く。

詩の顔がぱっと明るくなる。

しかし、志貴の表情が険しいことで、それが簡単なことではないことを察する。







そしてそれは、唐突な質問だった。

「君は、“アリス村”について、どれだけ知っている?」




「アリス村...」

詩は志貴の言った言葉をつぶやくように復唱した。





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