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何が視える



「私、アリス村出身なの」






え....





ええええええええ?!?!







詩と翔。

2人そろって驚き冷めやらぬ中、セリーナ先生は「ほとんど誰にも言ってなかったけどね」と、付け足す。

翔は落ち着きを取り戻しながら、さっき感じたことはあながち間違いじゃなかったと、納得していた。

「じゃあ、南雲のじいちゃんのこと知ってんのかよ!!」

「ええ、もちろん。

南雲様のお孫さんにもあえて、なんだか懐かしい気持ち」

そう、翔をみて目を細める。

「でも、アリス村にいたのは10歳くらいまでだったかしら。

もうずっと、村を出てからの生活のほうが長いのよ」

「そ、そうなのかぁ...」

「なんで、村を出ることになったんですか?」

純粋な疑問だった。

あの村にいれば安心で安全で、村の外は危険だと言われて育つのだ。

まず出ようなんて発想にいたらないし、南雲の守りの中、学園のスカウトが入る隙なんてどこにもない。

「ひとつは、私の両親が、単純に旅行好きだったのよ。

何も南雲様の思想に歯向かったわけじゃなくて」

その言葉に、少し安堵している自分がいた。

「ちょっとした旅行の最中に学園にスカウトされたのがきっかけよ。

結果、私は後悔していないし、こっちの暮らしが私にも家族にも合ってたって、ただそれだけのこと。

南雲様には今でも家族全員感謝しているわ」

セリーナ先生はにっこり笑ってそういうのだった。

「なるほどなぁ、そう言うパターンもあるのか」

詩は初めてきくセリーナ先生の話に興味津々だった。

「でもひとつ、心残りと言えば...

アリス村にいる、従妹家族のことかしら...

南雲様の守りはお強いから、いくら私のアリスを使ってもその様子が視えなくて。

もうずっと、会っていないから...

みんな忘れてしまったかも」

少しだけ、セリーナ先生が寂しそうな顔をした。

でもその時、詩ははっとする。

「もしかしてそれって...

アサ婆のとこの、マヒルさんか?!」

えっと、心底驚いた様子のセリーナ先生。




「なんで、茉妃留の名前を...」

セリーナ先生のいう、離れ離れになった従妹は、ユウヒの母、マヒルのことだった。





「茉妃留さんって....」

ああ、と翔も思い出す。

お前、よくわかったなとそれには感心する。

それから詩は、マヒルとのこと、その子どものユウヒのことやアサ婆の家でのことをこれまた楽しそうに話す。

少しだけ、セリーナ先生の瞳がうるんでいた。





「ああ、よかったわ。

私と茉妃留は本当の姉妹のように仲が良くて...

アサ婆にもたくさんお世話になったし....

そう、茉妃留に子どもがいたのね。

詩くんの話を聞く限り幸せそうで...

本当によかった....

まさかこんな....

ずっと自分のアリスで視えなかったものが、詩くんの口からきかされるなんて。

もうずっと、会えないものだと思っていたけれど。

なんだかすぐそばにいる感じがしたわ。

ありがとう」

「何言ってんだよーセリーナ先生っ

今度一緒にアリス村行こうぜ!

南雲のじいちゃんなら歓迎してくれるよ、きっと!!」

きらきらした瞳の詩。

まぁ、それはどうかな、と半分思うも、詩がつれて行けば許されるような気もするのだから不思議だ。

「今度、一緒に会いに行こう!!」





詩の言葉に、セリーナ先生は微笑んで、頷いた。




学園の生徒、教師までも、彼に惹きつけられる理由が今一度わかった。

後輩の鳴海も、なんだかんだ悪態をつきながらも、ずっと詩の面倒を見続けていた。

それはこの、どんな未来予知よりも、どんなアリスよりも強い言葉。

約束された未来なんかじゃないけれど、そう思わせてしまう、彼が言うなら本当にそうなってしまうんじゃないかと思わせるもの。





幼い頃の南雲様の記憶と重なった。

その、大きな背中と...




南雲と東雲。

全然タイプは違うのだけれど、こうしてその2人が今目の前にいることが何よりの奇跡だと、そう感じた。







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