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赤髪の転入生



とうとう、この日が来た。

学園に来て1週間が過ぎ、その間も何度か耳にした噂。





それは、中等部花姫殿の姫宮のこと。





そして今日、その面会の日が...来てしまった。

こんなにあらぬ噂をきいて、誰が行きたいと思うか...

それに、肝心の詩は隣にいない。

ここ一週間なんだかんだずっと一緒にいた詩。

しかしその詩は、そのアリスの特性上、花姫殿には一切近づけない決まりになっているらしい。

学園の中でも本部をはじめとしたほぼどこにでも、出入り自由な詩。

生徒の中でも、それは外の任務を数多くこなす詩だけの特権らしい。

そんな詩が、唯一学園の中で制限されている場所。

そこが花姫殿だった。

まあその理由については、東雲の式神のアリスを理解する自分からしたら、誰よりも理解できた。

式神のアリスと対等に渡り合える結界のアリスは南雲家しかないと、自負できるがゆえ。

それ以外の結界のアリスは、式神使いには過干渉しすぎて、結果身を滅ぼすことにつながるのだ。






ということで今日は、詩の彼女、##NAME2####NAME1##の案内により姫宮の御前へ向かうことになった。

久しぶりに詩のいない静かさを味わえている気がする。

そして、これまた久しぶりな気がする白装束。

こっちのほうがまだ着慣れているせいか、落ち着いた。

正装でくるようにとの、姫宮たっての要望だった。





あの詩にこんなきれいでいい子そうな彼女がいるなんて。

長い廊下を静かにすすみながら、そう思う。

少し納得がいかない。

でもわかる、彼女はきっと、ものすごく、詩が好きなんだなと。






「詩と、友だちなんですね」

きれいな着物に身を包み、広い花姫殿をすすむ彼女。

姫宮の側近であり、同じ結界使いだという。

「まあ、友だちというか、相棒というか....」

素直に言うのは少し恥ずかしい。

「うらやましいです。

同じ結界のアリスでも、翔さんのアリスは、詩を守れるアリス。

でも私のは、違う...」

そんなこと、考えていたのか...と思う。

自分よりも詩と過ごした時間は長いはずなのに、詩を遠くに感じている人もいるのだと、こんなにも理解したいと思っている人がいるんだと、思った。

「別に、いいんじゃない?」

くすっと翔は笑う。

「あいつにはもったいないくらい、##NAME1##ちゃん、良い人だから」

そう言った、意味が##NAME1##にはわからなかった。

でも、なぜだか、翔には、詩を安心して任せられるような気がした。

これが、同じ結界のアリスがゆえの、直感というものなのだろうか。







「すみれの君、ごくろうじゃった」




噂に聞いていた姫宮は、妖艶で、どこか不思議な雰囲気で、年齢不詳、つかみどころのない人だった。

そばに、あの音色のアリスの静音の姿も見つける。

すみれの君と呼ばれた##NAME1##は、案内を終えるとすぐに姫宮のもとに控える。

姫宮はその##NAME1##の動作ひとつひとつを愛でるように...いや、なめまわすようにみて、やっと翔へと目を向けた。




「南雲家の者、とな?」

姫宮の問いに頷く。

「アリス村から参りました。

この度は、私がこの学園にいられるよう、手厚いご支援があったときき、

お礼を言いに伺いました。

感謝、申し上げます」

南雲家に伝わる衣装で、深くお辞儀する。

「面をあげ。

わらわも、生きているうちにまた南雲家と会えるとは思わなかった。

長生きはするものじゃ」

おほほほ、と笑う姿が魔女のようだとは、口が裂けても言えない。

「どうじゃ、学園は...」

どうかときかれ、少し考える翔。

「アリス村とは違って、まだ慣れず、戸惑うこともたくさんありますが...

すべてが目新しく、にぎやかで....

たくさんの才能にあふれる、希望のある場所に思います」

##NAME1##はそんなこと思っていたんだ、と意外に思っていた。

「そうか...」

静かに頷く姫宮。

「同じ結界のアリスではあるが、わらわとお主ら南雲家は違うものを守っているように感じる。

どう思うかえ」

戦後、言い方は悪いが逃げたとされる南雲家。

“従う”に徹したその他の結界使い。

少なからずそこに、溝があることは確かだった。

理解して、翔は一拍おいて話し始める。

「アリス村には、“変わらない”よさがあります。

皆がルールを守り、均衡を保てば、確固たる幸せが約束される、そんな場所です。

でも、アリス学園は違う。

よりよい方向へ、より輝かしい未来へと、“かわろうとする”“変えようとする”よさがあります。

変革にはそれ相応の苦労がつきものとは思いますが、時代は変動する。

止まっているだけじゃ、いけないのだと、私は思います」

どこか満足げに、姫宮は頷いた。

「お主から、その言葉をきけてよかった。

山の上の獅子にも、よろしく頼むぞ」

山の上の獅子...

かつて、獅子と呼ばれた南雲家のその伸ばした赤髪。

十次のことを言っているのだと気づいた。

「はい、ここでのことはしっかりと申し伝えます____」

翔はまた、深くお辞儀した。







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