残酷な現実
「詩、あの男の言葉を真に受けるな」
帰り道、先生はまたそう念を押すように言った。
「わかってるよ」
「絶対1人であそこへ行くな。
おじいさんのことだって」
また強く、先生は言った。
「わかってる。
じじーはあんなやつと友だちにならない。
なんかきみわるい人だったし」
じじーのことが気にならないと言えば嘘になるが、本心だった。
それよりも、先生の目があまりに真剣で、自分のことを本気で気にかけてくれているのがわかっていたから、あの人のもとへ行こうなどと思わなかった。
だからこそ、気になった。
あいつは、あの校長は何者なのか。
先生があんなに警戒する、あの先生がこんなにも真剣な表情になる理由とは、なんなのだろうか。
最初はただの好奇心。
まだ誰にも言ってなかった、式神のアリスの能力。
その、無限大の可能性に......
その言葉も気になっていた。
でもわざわざ行く必要などない。
自分のアリスの可能性なんて、自分で見つければいいじゃないか。
そんな軽い気持ちだった。
式神を一体、あの部屋に忍ばせたのは.........
能力が安定していないこともあり、なかなか初校長の様子はわからなかった。
でも、式神を介していきなり見えたあの現実。
先生....
6歳の自分にはあまりに直視できない現実で。
怖くて怖くて怖くて.....
その現実を受け止められなくて。
どうしたらいいかわからなくて。
朝になっても部屋から出ることができなかった。
外から式神を介して聞こえた、先生が行方不明という事実。
それすら認めたくなくて。
―でも、自分の目で見た現実に、偽りはなかった。
数日後、先生の死の知らせが届いた。
その日は、ずっと泣いていた。
1人で。
部屋にこもって。
怖くて、苦しくて、辛くて、悔しくて......
もうよくわかんなかった。
こんなに一気に悲しい感情が押し寄せるなんて、今まで経験したことがなかった____
.