残酷な現実
「先生、どこいくんだよ。
〝きんしんしょぶん〟じゃなかったのかよ」
さっきまでその処分で大人しくしていたのに、先生がわざわざ部屋まできてついてこいと言った。
先生のあとをついていきながら、そう問えば真剣な顔がかえってきて。
「これから初等部の校長先生に会う。
校長は、お前にとって“いいこと”を言うかもしれない。
ただ、何を言われても、決して焦るな。
....詩のことは、しっかり俺が守ってやるから」
そのときは何のことだかさっぱりわからなかった。
「えーおこられるんだろどーせ。
めんどくせー.....」
そうぶつぶつ文句を言いながら先生についていった。
「―東雲 詩くんだね?」
これが、初校長との初対面だった。
目の前にいるその人物は、異様なオーラがあって、少し怖気づいてしまった。
不安げに後ろにいる先生を見ると、険しい表情でいながらも安心させるように頷いた。
でもそれが、余計に緊張した。
「そんなに固くなる必要はない。
君を叱るためにここに呼んだんじゃないんだから」
「え....」
「私は、君を褒めるために呼んだんだ」
どういうこと.....?
初校長の言葉を理解できずにいた。
そんな詩をおいていき、初校長は続けた。
「君のアリスは素晴らしい。
とても貴重なアリスだ。
君のおじいさんもそうであるようにね.....」
「...!
じじーのこと....」
祖父の話題で急に詩の反応が変わり、初校長は満足げだ。
「ああ、知ってるさ。
君のおじいさんと私は、古くからの友人でね。
聞けばあまり体調がよくないとかで、私も心配していたのだよ」
祖父のことを思い出し詩の顔が歪む。
「....校長、今その話は___!」
はっとした先生の声に、初校長は余裕の笑みで頷いた。
「そうだったね、この学園では家族との接触が許されないのだった。
でも、君のような優秀なアリスには特例として考えないわけではない。
もしおじいさんの話を聞きたければいつでも来なさい。
一教師よりも、私は君のためにできることがたくさんあるのだよ。
詩....」
初校長は、詩の頭の上に手を置いた。
その目は、生徒自身をみている目でなくて、いい道具を見出した時の目だと、行平にはわかっていた。
心底吐き気がした。
「今の話もふまえてきいてほしい。
君のそのアリス
周りは理解してくれないんだって?」
詩はぱっと顔をあげる。
「しかし私は違う....
私は理解できる
君のアリスを.....
価値のわからない凡人といたってストレスを溜めて、またアリスを暴走させてしまう
君がそれを辛く思っているのは知っている
だからその君のありあまるアリスを君の使うべき場所で使ってみないかい?
アリスには無限大の可能性がある。
私は君と、君のそのアリスにその可能性を強く感じたのだよ」
そこで、行平の刺すような視線を感じ取り、初校長は話をきりあげる。
「この先の話を聞きたければまた来るといい
今度は、1人で.....
そしたら私が、君のアリスの最大限の価値を見出してあげるよ。
.....待ってるよ、詩」
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