憎めない奴(殿内side)
あの日を境に、俺と詩の仲は急速に縮まっていった。
気がつけばいつも一緒にいて、一緒にサボったり悪戯したりして、笑いあった。
詩は、あの日はさすがにこの顔ではいけないと、また特力にいくのは延期になったけど、
しばらくしてまた特力に行こうと誘ってくれた。
そこはとっても自由な場所で、いい奴らばっかで、居心地がよくて、いつも詩を中心に笑いが絶えなくて、すぐに気に入った。
すぐにみんなと打ち解けたし、いじめがいのある後輩(翼やメガネ)も見つけた。
そして月日はあっとゆうまに流れた。
詩と出会って半年後のある日、俺は詩に呼び出されていた。
もちろん、授業をサボって。
「ここ、懐かしいな」
ふいに詩が言って、ああ、と思い出す。
あの日、ジンジンにサボリが見つかった木の下。
そこに俺達は足を投げ出して座っていた。
あの日が、もう何年も前のことのように思えて、詩とは何年も前から一緒にいるかのような変な錯覚になる。
「―お前に頼みがあんだ」
詩は真剣な目で、急に切り出した。
「なんだよ頼みって。
改まっちゃって」
ははっと笑うが、詩の目はあまりにも真剣だった。
「特力のこと、お前に頼みたい」
「は?」
よく意味がわからなくて、聞き返す。
「俺、今度創設される〝危険能力系〟の総代表になることになったんだ」
「え?
危険、能力系?」
「ああ。
今、特別生徒に指定されてる生徒の扱いはお前もわかると思うけど、ひどいもんなんだ。
そんな奴らの居場所を作りたい」
それは、前から詩の言っていたことだ。
まさか本当に実現させるなんて。
「俺は特力から危険能力系に籍を移す。
このことはまだ殿、お前にしか言ってない。
一番信用できるから言ったんだ」
詩の瞳は強かった。
「そんなこと...急に言われても....
だってそしたら、特力はどうなんだよ?
お前、先輩たちから特力のこと託されてて、次期総代表っても言われてて。
特力はどうなってもいいのかよ?!」
「そんなこと、思ってない!
大切だから、お前に頼んだんだ」
詩は必死だった。
久しぶりのその顔に、俺はまいったと言うしかなかった。
「わかったよ。
何よりも、詩の頼みだからな」
俺はにっと笑った。
そうすると詩も「ありがとな」と言って、くしゃっと笑った。
最近、付き合いが悪いのもなんとなくわかった気がした。
きっと、危力系創設のために1人動いてたのだろう。
詩や特別生徒の〝任務〟のことは、なんとなく噂は聞いた。
胡散臭い噂ばっかの初校長のところに詩が出入りしているのも知っている。
でも俺は、詩にそのことを聞くことはなかった。
詩が言わないなら、何も聞かない。
俺はまだ聞けない。
早く詩のように大人になって、詩の背中に追いつくまでは.......
詩はいつだって、誰かのために自分の身を削るような奴だった。
この頃からずっと......
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