憎めない奴(殿内side)
「おいお前、東雲詩だよな?
こんなとこで何してんだよ?」
目の前に現れたのは、3人組の男子。
制服からみて、高等部生とわかる。
逃げている間に、高等部のほうまで来てしまったらしい。
そしてなぜか相手はこちらにケンカ腰。
というか、詩にあからさまな態度だ。
「殿内....ちょっと先行っててくれないか?」
詩は小さく言った。
「は?俺場所わかんねーし」
「いいから。とりあえずこの場を離れてくれ」
詩の声色から、まじなのはわかった。
「堂々と高等部にまで来て授業サボリとはさすが、本部のお偉いさんに媚売ってるだけはあるな」
高等部生は詩の前にたち、嫌味っぽく言った。
「髪も染めて.....調子のってんじゃねえぞ?」
―ガンっ
高等部生の1人が、詩の髪を鷲づかみにし、壁に押し当てた。
「ちょ、おいっ」
やばい雰囲気に、とめようとするが高等部生に睨まれる。
そして、
「殿内、お前には関係ない。
早くこの場から」
詩はさっき笑って話したときとは全く違う、静かな声で言った。
「そうだぜ、さっさと行ったほうが身のためだ。
俺らはこいつに用があんだから」
高等部生の威圧感に、少し怯んでしまう。
何もできないでいると、高等部生は詩に向き直る。
「裏で汚い仕事やって、点数稼ぎしてるんだってな?
じゃなきゃ、お前みたいなおちこぼれの特別生徒が幹部生なんてありえない。
どんな仕事してるか言ってみろよ?」
高等部生の挑発に、詩は何も言わない。
「何とか言えよ!聞いてんのか?!」
―バシッ
詩が倒れこむ。
口から血が出ていた。
「てめぇら!」
勝手にからだが動いていた。
俺が、詩を殴った奴に掴みかかろうとした時だった。
―シャッ....
式神が俺と相手との間に割り込み、俺の動作をとめた。
「詩!?」
驚いて詩をみると、
「殿内、お前は手を出すな。
これは俺のことなんだ」
目を合わせず、俯いて詩は言った。
「何だよ!
この気持ち悪いアリス!」
掴みかかろうとした相手が、散らばった詩の式神を踏みつける。
その時の詩の表情は、前髪が長すぎて読み取れなかった。
でも、想像しただけで自分もやるせなくなった。
「お前は下がってろ!
俺達はこいつに借りがあんだよ!」
高等部生は俺をおしのけ、詩を囲み、蹴りを入れた。
「う゛っ....」
「...ぐ」
「がはっ」
詩のうめき声に我慢なら無くて、高等部生に飛び掛ろうとするが、詩はそれを見て、首をふった。
強い瞳で、「手を出すな」と言っていた。
その目があまりにも強すぎて、俺は何もできなかった。
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