式神のアリス/弱さと幼さ/未熟な式神
「これはおまえが傷つけた人たちの、ほんのいちぶのいたみだ!」
そう言ったあと、痛みはひいたが、詩はそのまま、力なく下を向いた。
......治した痛みを還元できるのか。
ナルはなるほどなと思っていた。
「....おまえがきずつけた人たちのいたみをわかれっ
なんでみんなをきずつけるんだ....
なんでみんなをこわがらせるんだ.....」
昴は肩を震わせ言った。
その後、詩はおとなしくなり、先生によってその場から連れて行かれた。
俺達もついていった。
このときの小さな影の、大きな大きな勇気が、詩を変えた最初のきっかけということは、言うまでもないだろう。
先生は、めがねの子の頭に手をおいて、こう言っていた。
「ありがとな。
よく、勇気出してくれたな。
助かった、昴」
先生と詩が向き合った時、もう詩は暴れる気配なんて微塵も見せず、ただ肩を落とし、俯いていた。
「詩....」
そんな詩に先生は優しく声をかける。
「もう、わかったろ?」
「.....」
少し間をおいて、詩は小さく頷いた。
それに対し先生は安心したような顔を見せた。
「ほら、これ。
新しい制御ピアスだ」
詩は顔をあげ、少し怯えた表情をした。
「大丈夫、これは俺のアリスがベースだ。
結界のアリスは入っていない。
......もう、あんな怖いことにはならない」
「お前が、一番怖かったんだよな、あの時。
クラスにいた誰よりも」
「.....」
詩は頷く。
その瞳は、もう荒んでいなく、変わりに悲しみ一色だった。
「.....じぶんがこわかった。
あのとき、じぶんがじぶんじゃなくなっちゃうみたいに、アリスがかってに.....」
声が震えていた。
一緒にその様子を見ていた柚香先輩が、すっと僕の隣から動いた。
詩に向き直り、小さな小さな手を包み込み、
「もう、言わなくていいよ。
よく、1人で耐えたね」
柚香先輩は、詩の目線にあわせ、笑いかけた。
その途端、これまで溜めていた涙が堰を切ったかのように、一気に溢れ出した。
肩を震わせ、詩は泣いていた。
やっと、本来の5歳児の姿が見れた気がした。
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