旅立ち/目覚めたとき
「詩...詩...」
友の声がした。
幼いころから一緒に戦ってきた、大切な仲間。
人を傷つけそうになる俺を、いつも厳しく叱ってくれた。
俺が、自分のアリスを嫌いにならないように、優しい愛情をもって接してくれた、仲間。
身体が鉛のように重くて、動かなかった。
だけど、なぜか、今その呼びかけに応えないと、どこか遠くへ行ってしまいそうな気がして....
力をふりしぼって、重たい瞼をゆっくりと開けた。
月がきれいな夜だった。
「すば...る...」
かすれる声で、今出せる最大限の力で呼んだ。
こちらをのぞきこむ顔は、驚いているようだった。
「出発を前に、詩の顔をみにきただけなのに...
まさかまた、こうして話せるなんて」
メガネの奥の瞳が揺れている。
「お前が、呼びかけたんだろ....
友だちが呼んでんだ。
あたりまえだろ....」
昴はその答えに笑った。
「お前らしいな」
「...どうなった。
あれから...学園は...」
その問いに、なぜだか昴は少し悲しそうな顔をした。
「初校長は倒れた。
すべて終わったよ。
詩の描く未来が、叶う日がすぐそこまで来てる」
表情とは裏腹に、しっかりと昴は応えた。
「そうか、よかった....」
安心すると、また瞼が閉じそうだった。
「お前のおかげだ」
昴もまた、穏やかな表情だった。
「...なに言ってんだ。
みんなのおかげだろ。
もっと、くわしく聞かせろよ」
それに関して、昴は口をつぐんだ。
「お前もまだ万全じゃない。
明日、##NAME2##や櫻野にきくといい。
今日はもう、身体を休めろ」
「それも...そうだな」
昴らしい、身体を気遣う言葉に頷いた。
「詩...最後にひとつだけ....」
昴が、もったいぶっていうから、こっぱずかしくなる。
「なんだよ、改まっちゃって。
そんなの....すぐに元気になって....いくらでも....きいてやるよ」
「今、きいてくれ」
「え...」
少し、いつもの昴と様子が違うようにみえた。
「詩、僕は君に出会って、本当にたくさんの希望をもらった。
危なっかしくも、自分の決めた道を突き進んでいくお前の姿が、僕や櫻野の光そのものだった。
自分たちの未来に、学園に絶望した時だって、詩は僕たちなんかより早く立ち上がって歩き出していた。
強すぎるそのアリスさえも、誰かを守る強さにかえていくお前を、尊敬していた。
僕はいつも詩の後ろにいるばかりで、詩の前に立ちはだかるものを一緒に超えていくことができなかった。
でも、せめて、学園では詩が安心して笑えるような場所でありたいと思っていた。
友だちとして、一緒に戦った仲間として、学園の家族として、詩のことはとても大切だよ。
ありがとう、詩....」
「照れるじゃん....
昴ってば....らしくねーの」
やっぱり今日の昴はどうかしている。
でも、今はそんな昴とずっと話していたい気分だ。
それなのに、身体が言うことをきいてくれない。
また、深い眠りに誘われて、引きずり込まれていく。
まあ、いいか....
また明日、話せばいい。
今日は、とても疲れた....
「おやすみ、詩...」
昴は優しく声をかけ、のだっちが待つ時空へと戻った。
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