旅立ち/目覚めたとき
久しぶりに、じじーの夢をみていた。
暗い暗い、闇の中をひたすら、じじーの背中を追って歩いていた。
「待てよじじー」
じじーの歩くスピードは速すぎて、なかなか追いつけない。
次第に、詩の息も上がってきた。
なんで、なんで....
振り向いてほしいのに、なんでこっちを見てくれないんだよ!
あの時だって、学園に入れられたあの時だって、ずっと迎えに来てくれるのを待っていたのに.....
じじーが俺をひとりきりにするなんてないんだ。
すぐ元気になって、また一緒にいられるに決まってる。
そんな希望があったから、我慢してたんだ。
なのに、なのに....
学園から渡された制御装置というのでアリスが暴走し、何もしてないのに、みんなから嫌われた。
じじーが早く迎えに来ないからこうなったんだ。
じじーのせいで....っ
だから、あの時の不満を言ってやらないと気が済まない。
俺の不満くらい、あの時みたいにきけよ!
神社で遊んでいた時のことを思い出す。
待て!
待てっつってんだよ、じじー!
ぱっと、一瞬にして明るいところに出た。
そこは真っ白で、家具も何もない大きな部屋のようだが、広すぎて壁際が見えなかった。
今まで長いこと進んできたのはトンネルだったようだ。
少し離れたところに、じじーの姿が見えた。
「じじー!」
夢中で叫んだ。
「やっと、やっと会えた!」
じじーは微笑んだ。
「元気のよい少年じゃ。
さ、ここは君のくるところではない。
もと来た道へ帰りなさい」
「何言ってんだよじじー。
俺のこと、忘れたのかよ...」
じじーは微笑み返すだけ。
その時、記憶がよみがえる。
「...俺、死んだの?」
思い出した。
俺は確かアリスの底がつきて....
だからここは....
「暗闇は、怖いじゃろ」
戸惑う詩を無視して口を開いた。
「それでも、生きていさえすれば、そこから這い上がることができる。
ここは暗闇も何もない世界。
君が来るには早すぎる....」
振り返るトンネルは、確かに暗く戻りたいと思えるものではなかった。
「ここは何もない。
希望も、未来も、苦しみも、痛みも、幸福も、何もかもない。
君には、後ろに道が見えるらしいのう。
わしには何も見えないが、きっとそこが出口じゃ。
恐れるな、待ってる仲間を思い出せるなら、まだ遅くはない」
詩ははっとする。
##NAME1##の顔、蜜柑や殿、鳴海や秀、昴.....
みんなの顔を思い出した。
あの時のかけがえのない思い出たち。
そして、まだまだ生きたいと強く思った感情。
すべて、思い出した。
大切なものがどんどん、あふれてくる。
「じじー、俺、生きたいよ」
涙でじじーの姿がぼやけた。
それでも、ずっと微笑んでいるのはわかった。
じじーは、深く頷いていた。
俺は、暗い闇の中へまた、走り出した。
あの部屋に仲間はいない。
でも、こっちにはいる。
きっと、待ってくれている仲間がいるんだ。
だからもう、振り向かない。
ー詩...!
最後に自分の名前を呼んだのは、じじー....のような気がした。
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