終局/すべてを懸けて
今だっ
ーザアッ!
月のアリスが解けたのを見計らって、詩はすぐに久遠寺にアリスを向けた。
案の定、結界のおかげで、アリスは暴走し始める。
棗もすぐに加勢し、またたくまに式神が躍る炎の竜巻ができあがった。
風の勢いのままに、式神と炎が久遠寺を襲った。
結界を強めれば詩のアリスが強まり、弱めれば棗のアリスが強まる。
久遠寺側の結界師も困惑していた。
「ルカ!
みんなを、仲間を結界で守ってくれ!
本部はもうすぐ炎ですべて埋め尽くされる。
今のうちに生徒たちみんな、無事ここから脱出できるように!」
棗の叫びに、詩も続く。
「俺らはあとからいく!
このアリスで関係ないやつらを傷つけないためにも、殿!
みんなを避難させてくれ!」
「棗も一緒に!」
ルカが言った。
「詩!俺も戦う!」
殿も、叫んだ。
「俺は、だめだ。
俺はダメなんだルカ...」
炎がゆれる中、棗の背中が寂しかった。
「あいつを、地獄に叩き落すのをその目で見届けるまで。
俺は大丈夫だ。
けど、詩と同じだ、このアリスから全員守ってやれる余裕は今ない。
俺はここを離れるわけにはいかない。
死なない、死んでたまるか」
炎が、皆を遠ざけさせるように広がってゆく。
ルカのつらそうな顔が見えた。
また、棗にあんな目をさせてしまった。
学園に来る前の、あの時のような目....
自分を捨てると決めたときの目....
詩もまた、親友の殿と向き合っていた。
「俺も、ずっとこの時を待ち続けた。
6歳のあの時からずっと。
一番憎いやつの、一番近い場所で、一緒に同じ景色をみてきた。
俺の手で、このアリスで、あいつをとめないと気が済まない。
一番、俺を理解してくれているお前だからみんなを頼める。
俺だって死んでたまるかよ。
生きて学園の未来作りたいに決まってんだろ」
詩はそう言って、式神が飛び交う炎の中、笑った。
なんでこんな時でも笑えるんだよおまえは....
「みんなを避難させたら、必ず速攻、お前ら連れ戻しにくるからな!
それまで、絶対絶対へばんじゃねーぞ!!!」
殿は喝を入れるように叫んだ。
そして、一度だけ不安そうに振り返ってから、みんなと一緒にその場を離れていった。
「棗、わりーな。
お前ばっかり巻き込んじまって。
本当は、俺一人残るつもりだったのに、先に言いたいこといいやがって....
お前をとめなきゃいけねーのに、とめれない。
俺は本当に、だめな先輩だ....」
「るせえ。
俺の決めたことだ。
先輩だろうがなんだろうが誰にも口出しさせない。
それに、俺もお前もまだ会ってないだろ....」
棗の言うのは、蜜柑と##NAME1##のことだとすぐにわかった。
「ああ、そうだよ。
俺らは、約束まもんなきゃいけねえんだよ。
ぜってー悲しませちゃいけない相手がいるんだよ。
そのためにも、踏ん張るぞ!!」
詩と棗は、久遠寺に向き直った。
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