終局/すべてを懸けて
「棗!」
様子がおかしいことに気づき、その声で、詩は久遠寺に出しかけた手をとめ振り返る。
そこには、血の付いたナイフをもった生徒と、崩れ落ちる棗。
みるみるうちに、出血で床が赤く染まる。
一瞬、時が止まったかのようだった。
しかしみんな、事の重大さから反射的に一斉に棗に集まる。
「だめだっ一か所に集まるのは...っ」
そんな詩の声は遅かった。
棗に集まりかけたところに、テレポートで風紀隊が現れた。
次々と、みんなの動きが封じられた。
ーダンッ....
ーダンッ....
事態はさらに最悪な方向へと向かう。
油断した詩にも、銃弾が撃ち込まれたのだ。
「っぐ...」
「詩あ!!!!」
殿のそんな声が聞こえた。
銃弾はしっかりと利き腕と足に命中していた。
「くそいってぇ!!!」
そう詩は叫んでも、久遠寺へ向ける目はそらさなかった。
こんなに一般生徒がいる中で、けがをかばいながらいろいろな術や結界に守られる久遠寺を攻撃するのはさすがの詩でもためらってしまう。
―やっとここまできたのに、目の前にいるのに、俺はどうすれば.....っ
そう、詩や仲間が、攻めあぐねていた時だった。
「目を覚ませ...っ」
学園中に響いたその声。
スピーカーから聞こえた声で、レオや鳴海たちが、放送室を占拠したのだと想像がついた。
「初校長なんかに....っ
いつまで自分のアリスを好き勝手させとくつもりだ!
いい加減、おかしいことに気づけ!
断ち切れ!」
レオの声で、徐々に月のアリスで操られていた者たちが、目を覚まし始める。
「心を強く持って、自分の足で立て!
もっと自分の力と向き合え!
お前らのアリスは、自分の心でみがいて
自分だけの光を発するためにいきてるんだろ。
負けるな!
力をふりしぼれ!
自分を信じろ」
レオ、ナル....
詩もまた、その言葉に勇気づけられていた。
蜜柑らが対峙する、月にもその言葉は届いた。
蜜柑は静かに、口を開く。
「...小泉さんが、自分のアリスを好きになる日がくることを祈ってる。
ウチも、お母さんらも。
もう、小泉さんの好きに生きはったらええ。
みんながうちら同様、小泉さんのことずっと、ちゃんと見守ってるってこと、それだけは忘れんといて」
月は、悲しそうな、だけどしっかりと自分をとらえる蜜柑の瞳に、柚香を重ねていた。
今度こそ、愚かな自分と向き合わなければならない。
遅すぎたのかもしれないけれど.....
月のアリスはいつしか、解けていた。
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