差し出した手/踏み出した一歩
―ドンっ...
―ザシュっ...
鈍い音や、風を切る音が飛び交っていた。
初校長討伐部隊は、時空間にいる蛍たちのサポートを受けながらも、着実に初校長を追い詰めていた。
棗の炎に詩の式神を混ぜる攻撃も、だんだんと息があってくる。
それを殿の増幅や琉架の結界で援護していた。
翼の影操りや神野の雷も、重要な戦力だった。
しかし、その中でもやはり詩だけは段違いの強さをみせていた。
一手に多くの敵を担い、大量の式神をものすごいスピードで操り攻撃する。
各々の負傷が目立ってきた皆は、詩の一撃に頼らざるを得なかった。
国家レベルの任務をこなしてきたのだ。
アリスのパワーからコントロールの精密さまで、格の違いを見せつけられていた。
闘うことを前提として鍛えられたのだから、それもそのはず。
風紀隊も詩には警戒度を高めていた。
殿や棗たちも、柚香と蜜柑を逃がすときに詩の戦い方をみていたが、今回はさらにその上をいっていた。
それほど、詩を本気にさせるほど、こちら側は満身創痍だった。
「うわっ」
翼が敵の攻撃に半歩出遅れたとき、すぐに詩の式神がとんできて、攻撃を回避する。
「大丈夫か翼!」
支える詩は、やはり頼もしかった。
「ありがと詩、まだ戦える」
その言葉に、詩は頼んだぞ、と頷く。
そしてまた、殿とコンビを組んで敵に向かう。
「気づいたか殿、風紀隊に交じって、一般生徒の割合が増えてる」
詩が険しい顔で言う。
「ああ、風紀隊の中にも、ろくに治療もされずに捨て身で向かってくる奴らもいた」
殿も答える。
「月先輩のアリス...」
詩は考え込むようにつぶやいた。
「いよいよ、初校長側も手段を選ばなくなってきたってことか」
「やりにくいな...
手加減できるほど、余裕ねーぞ俺」
詩は唇をかみ、アリスに集中する。
殿はそれを、できる限り増幅で援護することしかできなかった。
ー詩、お前の中にはあとどれくらい、アリスが残っているんだ?
さっきから、お前はアリスを使い通しで....
でも、戦況はどんどん緊迫していって。
初校長には確実に近づいているけど、このままでは.....
殿は、自分の予感が当たらないことを切に願った。
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