差し出した手/踏み出した一歩
―バリバリバリッ
##NAME1##の結界が電気のようなもので揺れた。
「櫻野くん、テレポートはだめ!
すでに初校長側の能力者による何種もの結界に加えて、やっかいな術がかかっている。
私にはこれを抑えるので精いっぱい。
安全にテレポートすることは保障できない」
すでに##NAME1##のアリスも、限界に近いようだった。
無理もない。
学園生徒一の結界師といえど、初等部校長の精鋭による何重にもかけられた結界と複雑な術に一人で対抗するのは困難だろう。
「もうこれで、正面突破をよぎなくされたか」
櫻野の顔も引き締まる。
戦況は厳しいが、ここは立ち向かうしかないようだ。
風紀隊たちが、4人めがけて襲い掛かる。
その時だった。
ぶわっ....
どさどさどさ....
自分たちに向けられたと思っていたペルソナの瘴気は、すべて敵である風紀隊に襲い掛かったのだ。
その行動には、皆、驚きを隠せない。
そんな中、ペルソナは蜜柑の前に出て向き合う。
「君を、初校長の手から守るために、ここから連れ出す手助けをさせてほしい。
この申し出が、君にとってそれだけ身勝手に映り、信用ならないものかは十分...承知している。
君の父や仲間を手にかけたこの手をとることが、君にとってどれだけ苦痛であるか。
...だけど、罪をどうか償わせてほしい。
犯してきた罪から目を背けることの愚かしさをその身をかけて気づかせてくれたのばらや、行平先生に報いるためにも....
一歩を踏み出させてほしい」
少しためらいながらも、差し出された手。
不器用ながらもひとつひとつ紡ぎだされた言葉。
過去をみてきた蜜柑に、その言葉はきちんと届いていた。
この手は、お父さん、のばらちゃん...棗や詩先輩たち、多くの人を苦しめてきた。
そしてこの人自身も。
ペルソナ自身のアリスで変色した手を見つめて、蜜柑は思った。
「あなたは誰よりも強い人。
アリスも、その境遇を生き抜いてきた心も。
だからこそ、人を傷つけない強さをきっと持ってるはず。
お父さんやのばらちゃんがあなたを信じて命を懸けたように、ウチもあなたを信じてみたい」
蜜柑は複雑な感情を押しのけて、ペルソナの気持ちに思いをはせた。
そして、その差し出された手を、そっと握った。
蜜柑の手が、瘴気にまかれることはなかった。
「自分のためにも、手を差し伸べてくれた大事な人たちの人生を無駄にしないためにも、もう二度と、
誰も傷つけないと誓う」
ペルソナはそう言って、しっかりと、蜜柑の手を握り返した。
目を覚ましていたのばらも、その光景に涙していた。
初校長の討伐に動いていた、教師たちと詩、棗、琉架、殿、翼ら。
そこにも、ペルソナが寝返ったことが知らされていた。
ペルソナを信用ならないと、皆が心配する中、詩だけは意見が違った。
「俺は、ペルソナを信じたい。
蜜柑の強さも、信じたい。
ペルソナが大きな勇気を出したのなら、彼の今までしてきた過ちを許す道で応援したい。
憎しみの連鎖を、産みたくないから。
それに、今まで蜜柑は強い意志で道を切り開いてきた。
今はその力を信じて、俺たちは前に進むしかない」
初校長が態勢を立て直す前に、逃げられる前に。
この機会は逃せない_____
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