反撃の狼煙
「テ...テレポートで間一髪逃げられた....っ」
確かに攻撃は有効だったし、うめき声も聞こえたが、そこに初校長の姿はなかった。
しかし....
「詩....」
棗が、ある一点を見つめて呟いた。
皆の視線がそちらへと向けられる。
ステージの影から出てきたのは、紛れもなく、詩。
みんな、夢かと思ったが現実に違いなかった。
ふわりとゆれる、ミルクティー色の髪。
ちょっと照れくさそうな表情が長い前髪に隠れていた。
走って前に出てきたのは、殿。
「お前、なんでここに....。
しかもアリスなんか使って....」
殿の心配そうな表情。
でも、詩はいつもと変わりなく言った。
「待たせて悪かったな。
アリスはちゃんと取り戻した。
反撃はこれからだろ。
俺なしでなんて考えらんねーよ」
「詩、てめぇ....
バカ野郎!
バカ野郎!!!」
殿は詩に掴みかかる。
はっとして止めにかかろうとする人を、のだっちたちがとめる。
「お前がいなくとも俺たちだけでやろうと思ってたのに!
たまにはお前なんかの手借りないで戦おうと思ってたのに!
なんでお前は....!!
お前はそうやって出てくるんだよ!!!」
詩は静かにきいていた。
殿は最後に力なく言った。
「お前のこと見たら、頼らずにはいられなくなるだろーが。
お前がいるだけで、なんとかなるって安心しちまうじゃねーか...っ
よかった、お前がいて...よかった」
詩は、そっと胸倉をつかむ殿の腕を離させた。
「殿、ごめん。
みんなも、ごめん」
詩は、みんなを見渡した。
「無理なんかしてない。
学園を守る為にみんなが必死になってるときに自分だけ寝てる方が俺にとってつらいことだ。
もう、1人でケリつけようとは思わない。
俺一人で敵う相手じゃないってことも知ってる。
みんなの力がいる。
気持ちは一緒だ、みんなであいつを倒そう」
本当に詩にはかなわない。
それぞれ詩に言ってやろうと思っていた言葉なんて、もう必要なかった。
みんな、詩の言葉にうなずいていた。
「詩、お前の式神で追跡できるか?」
神野が言う。
「炎と一緒に使ったから燃えてる可能性も高いけど、少しの間なら張り付いているはずだ」
「これからはお前が追跡の指示を出せ。
但し、無理はするな。
お前が今どんな理由でここにいるかはわからないが、もしお前の命が危険になるようだと分かった瞬間、お前を追跡メンバーから外す。
いいな?」
神野の問いに、詩は頷く。
じんじんの言うことをきくのなんて、初めてかもしれない。
詩はそんなことを思っていた。
いつも向けられていた厳しさも、愛情だと、今なら気づける。
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