孤独/退屈な冬
クリスマスの夜、詩は久々に楽しい夜を過ごしていた。
志貴が用意してくれた、クリスマスパーティ会場の生中継用テレビ。
そこには、今まさに、その会場で楽しむ皆の姿が映し出されていた。
ひとりだけ参加できない人にとっては一見、酷な仕打ちに見えるが、詩は何より、元気そうなみんなの顔をみるだけで自分も元気になれるような、そんな力がわいてくる。
自分の食べ物や飲み物もいつもより豪華なものだった。
普段より手をつけることはできるが、そこまで食べれなかった。
でも詩の目は久しく見ることのなかった活き活きとしたものだった。
「お!殿だっ」
テレビに映し出されてる親友に詩の気持ちも高ぶる。
そのまわりには櫻野や昴など、初等部の知った顔も多数あった。
そして、
「##NAME1##....」
いつものようにふわりと笑っている彼女の横顔。
途端に湧き上がる気持ち。
しばらくは我慢していたその気持ちが、どっとあふれ出た。
詩は、そっと画面ごしに##NAME1##の頬に触れた。
だけどその手は力なく、床に滑り落ちた。
ドンッと床に拳を叩きつける。
「.....会いたい」
詩の声はふるえ、久しぶりに自分の思いを口にだしたことで、気持ちがおさまりそうになかった。
―なんで、アリスがないんだ。
俺のアリスなのに、なんで!
アリスさえあればこんなとこにいなくたって......
悔しくて悔しくてたまらなかった。
そして先ほどから、画面にある人物だけ映らなかった。
―棗、今日もお前は蜜柑を探し歩いてるのか.....
その身を削ってでも進み続けるお前の気持ちはとてもよく分かる。
俺だってそうしたい。
だけど、だけど..........
詩はまた、みんなの楽しそうな表情を見つめる。
戻りつつある平穏。
そこに自分はいないという事実。
この状況を打開するには少なからずまた、騒動を起こさなければならない。
学園を危険にさらさなければならない。
しかし、それが必要なのだ。
―コンコン....
ドアからノックの音が聞こえた。
「薬の時間です」
そう言って入ってきた看護師。
詩ははっとして、ベッドの机の方へ向かった。
何も会話することなく、いつものように何種類もの薬を飲み始める。
最後の薬をごくりと水で流し込んだ後だった。
「....詩先輩、何も言わず受け取ってください」
え、と詩は驚いて顔を上げるが、その顔に見覚えはない。
しかしその看護師は何か、詩の手に握らせた。
それは感覚ですぐわかった。
「これは....!」
そんな詩の反応に何事もなかったように看護師は机の上のものを片付けはじめる。
「.....お前、もしかして.....五島か?!」
詩は小声でまだ驚きを隠せずに言った。
「.....誰にも言わないと約束してください。
中校長や鳴海先生にも」
看護師、いや、五島は詩に目を合わせることなく言った。
「これは、どうやって?」
「僕はただ頼まれただけです。
すべては....」
そこまで言いかけて五島はやめた。
「では、失礼します」
そう言って五島はドアへ向かった。
その首筋に、黒いあの跡を見つけて詩ははっとする。
「五島、ありがとう」
ただそう一言、噛みしめて言う。
五島は後ろのまま立ち止まり、振り向いた。
初めて、目を合わせた。
「詩先輩、僕にできることはこれだけです。
すいません。
......近々、学園がまた波立つようなそんな、騒動が起きるでしょう。
やはりこの学園には詩先輩、あなたが必要です」
五島はそういい残し、今度こそ部屋をあとにした。
.