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孤独/退屈な冬



今日は詩の病室から珍しく声が聞こえる。

志貴はノックをしようとした手をとめた。

中にいるのは鳴海のようだ。

2人が幼少の頃から共に任務についていたことは知っていた。

一時期、そのお互いを見る目は冷たいものだったけれど、今はいい関係だなとつくづく感じる。

志貴はそっとドアの前を離れた。









「あーっ!もうほんっとわかんねーーーーーーー!!!!」

詩は持っていたペンを放り出す。

「詩くん、いい?ここはこうで、~~~~~となるから.....」

今は鳴海が詩に勉強を教えているところ。

鳴海の口調も先生モードだった。

「まさかお前に勉強を教えてもらう日がくるなんてな!」

「はいはい、またそれ?

今日何回もきいたよ。

いいから勉強しようね~」

そう言ってうっすらとフェロモンのアリスを使ってくるから従わずにはいられない。

笑顔だけど、つくってるのがよーくわかる。

詩はパジャマの上に羽織ったカーディガンを直すと、また机に向かった。

いまだ病室をでれないし、ベッドからでれないのが現状。

日に日に食欲も落ちているのがわかる。

もちろんその状況は志貴や鳴海にも伝えられている。

鳴海はぼんやりと詩の以前より細くなった腕を見た。

いや、全体的にもう病人と同じような風貌だ。

そんな視線に詩がふと気づいた。

「.....食べなきゃいけねーのはわかってんだけどなー」

ぽつんとつぶやいたのに、鳴海ははっとする。

「そんなに食べれないの?」

「ああ」

そう言って、詩はおとなしくまた机に向かった。







「ねぇ...詩」

「あ?」

「そこ全部間違ってるよ」

「ぇえ?!

まじかよ!!!!!

めっちゃ自信あったのに!!!」

はぁ、と鳴海は溜息をついてまた1から説明を始めた。








「てかさーお前もずっと授業サボってたくせによく教師なれたよなー」

詩が不服そうに言う。

「そりゃね、教師なるときはちゃんと勉強したよ。

でも今の詩よりはぜんぜんできてたから。

お前ばかすぎ」

クスっと鳴海は笑う。

「嘘つけ!

見るからにお前もバカそうじゃん!」

「失礼だな。

てか詩はサボりすぎ。

これもいい機会だよ」

「お前まじムカつくなっ

やればいんだろーやれば!」

詩にとって勉強は苦痛の時間だった。

だけど今はこうして鳴海と2人、なんだかんだいって楽しくやっている。







「なぁ鳴海ー?

俺って教師に向いてると思う?」

突然詩が聞いてきた。

「何急に」

「いや、別に。

ちょっと聞いてみただけ」

「なに、お前なりたいの?!」

鳴海は驚き気味で言う。

「そんなんじゃねーしっ!!」

「無理に決まってんじゃん!」

鳴海は即答。

「は?!お前にそこまで言われる筋合いねーよっ!!!」

詩は少しムッとしているようだ。

「嘘。

詩ならなれるよ、行平先生みたいな先生にね。

僕みたいな教師よりずっといい教師になれる」

「え...」

「ばーか!

まず勉強できてからなりたいとかほざけよな!」

「な!なりたいなんて一言も言ってねーからなっ」

詩はそう言ったけど、横顔でわかったんだ。

詩は本気だって。

そして無性に切なくなる。

詩のほんとにやりたいことなのかなって。

やっぱり詩は学園にとらわれている、自分でも知らず知らずのうちに、ここから離れられなくなっている。

それでも、そんな呪縛が彼にあったとしても、彼の未来を守りたい。

まずは生きないと。

詩のアリスは取り返してみせる。

詩に希望を、自由を与えたい______









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