喪失感
学園の生徒内では、詩の突然の〝危力系総代表辞任〟が波紋をよんでいた。
そして流れる噂が生徒たちに混乱を与えていた。
「詩先輩が学園を脱走しようとしたって本当?」
「この間のあの夜のできごとも詩先輩が原因らしいよー」
「えーっそうなの?!
みんなを巻き込んで.....ちょっと詩先輩見損なったかも」
「初等部んときは最悪なヤツだと思ってたけど、高等部なっていいやつだと思い始めてたのにな」
「あの、裏で汚い仕事やってたってのも噂なんかじゃなさそうだな」
「式神で誰かにケガさせたらしいぜ。
それで今処分受けているとか」
「総代表退くって、よっぽどのことしたんだよね....」
みんな、あることないことを話していた。
そんな話はみるみるうちに学園中に広がった。
だけど、特力と危力のメンバー、そして今回の件に関わった者たちは知っている。
詩がどうしてこんなことになったかを。
特力の教室では、しばらく重苦しい雰囲気が漂う日が続いた。
ムードメーカーである詩と蜜柑がいないというのは、大きかった。
「みんな、変なデマばっか流しやがって!
詩はみんなを捨てて学園を脱走なんかしないし、
理由もなしにアリスで人を傷つけるなんてことしねーよ!
今まで詩の何みてきたんだよ!」
翼は、やりどころのない怒りを吐き出していた。
「翼。
ここにいるみんな、詩先輩がそんなことしないってわかってるよ。
噂なんて言わせておけばいいよ。
すぐにみんな気づくから」
美咲がなだめるように、翼の隣に座った。
「そうだぜ。
知名度や人気の高い詩だから、それを妬むやつらもいるんだろーよ。
俺達は詩を知ってる。
それだけであいつはいいって言うよ。
俺達も怒ったり気分下げたりしてるより、いつもみたいに笑えるようにしていこうぜ」
殿も会話に加わった。
「....そうだけど」
翼は、自分を心配して行動に移した詩にまだ罪悪感を感じているらしい。
「お前も笑えよ。
何も詩とは一生の別れじゃねーんだしさ。
なんでもないようにいつかふらっと戻ってくるよ」
なんだか、そう思えてならなかった。
今日、何食わぬ顔で欠伸しながら、はたまた悪戯が成功したと笑みを浮かべながら、扉を開けて入ってくるんじゃないか。
自分が教室に入る時も、一番乗りの詩がいつもの席に座って「よお、殿~」と手を振っている姿を一番に探す。
しかし、やっぱりその姿は無くて。
ふとしたことで詩を思い出して、その体調を気にかける。
詩、やっぱりお前が必要だよ、この学園には。
詩がいなくなって改めて、その存在の大きさに気づかされる。
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