爆発/悪夢は再び
「月....あんた、その姿....」
目の前に現れたのは、風紀隊を引き連れた月。
柚香がその姿に驚いているように、詩も驚いているのは同じだった。
体が衰弱して、中学生のような背丈。
でもそんな、自分を犠牲にしている姿を見ていると、なぜか詩は、月だけを責める気にはなれなかった。
誰かを守ろうと必死になる姿。
自分と重ねてしまう。
時にその思いは、自分でも歯止めがきかないくらい大きくなって、そして気がつけば自分自身はボロボロ。
でも、それはそれだけの理由があるから。
月先輩....
あなたはなぜそんなに.....
なぜそんなに執着するのか、あの男に。
「月...もうやめて。
これ以上自分を追いつめるようなマネ...
あの男にはそんな価値....」
詩も思っていることだった。
「うるさいわね」
月はぴしゃりと言った。
今の彼女には何の言葉も効かないなと、詩はそっと思った。
「何もしなくても、愛を....関心を、あたり前のように享受してきたアンタなんかに、
分かったようなこと言われたくないわ」
月先輩、それは違う。
間違ってる。
柚香さんだってあんたと同じようにアリスで苦しんでいたことを忘れないで。
差し込んでくる光をそうやって撥ね退けるのは、もうやめて。
いつだって柚香さんは自分で道を切り開いてきた。
時には誰かに手助けしてもらったものの、それは彼女の強さがあったから。
月先輩、一時の嫉妬だけで柚香さんを恨み続けるのは違う.....!
「それと、詩....」
今度は詩に視線が向けられる。
「あなたまだ、自分がしたことの重大さがわかっていないようね。
校長からの伝言よ。
これ以上逆らい続けたら、あなたのアリスはもう二度と、返ってこないと....」
その宣告に、みんな驚く。
「詩、アリスが返ってこないって....」
鳴海は詩の中にアリスがあまりないことを知らない。
志貴と柚香はテレパシーで棗から事情を聞いた。
詩は、じっと月を見据えていた。
「待って!
式神のアリスは詩先輩のアリスなのに、そんなのおかしい!
詩先輩のアリス、返したって!」
蜜柑の声に、詩ははっとした。
「何もわかっていないようね。
本当なら犯罪者扱いの彼に、校長は猶予をくださってる。
それだけでもありがたいと思いなさい。
さあ、詩、どうするの?
あなたの大事なアリスがなきゃ、あなたはカラッぽよ」
月は挑発的に、返事をせかすように言った。
「あいつの傍で間違い続けるあんたたちのところにいくより、
俺は俺のやり方で、悔いの無いように動く。
俺と月先輩、どっちの覚悟が正しいのかなんてすぐにわかる」
最後の詩の言葉は、冷たかった。
そして瞳は悲しげだった。
―月先輩、気づいて。
手遅れになる前に........
詩の手から式神が放たれた。
それは、戦いの合図だった_____
.