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親子の再会



月は本部の廊下を歩いていた。

初校長から呼び出され、話が終わったところだった。

前方に見える影。

こんな時間に....と思うが、先ほど校長が今日から詩の長期任務だ、と言っていたことを思い出す。

詩は、大きなバッグを抱えていた。

初校長と話した後、すぐに学園を出るのだろう。

詩も、こちらに気づいたようだ。

お互い、足をとめた。

「あなたも、よくこんなこと引き受けるわね」

そう、嫌味っぽく言ってやれば案外普通のトーンで言葉がかえってくる。

「誰も好き好んであんなやつのとこなんか行きませんよ。

あなたとは違いますから」

「....気に食わないわね、その口調。

前はタメ口で愛想の悪いガキだったのに。

ま、私はそっちの方が気に入っていたけど」

「あの頃とは違いますから。

.....月先輩は、あの頃と何も変わっていませんね」

「どういう意味?」

「そのまんまですよ。

別に、月先輩がしていること、初校長側についてることには何も言いません。

俺には言う資格がない」

「そうね。

どんなにきれいごとを並べても、していることはあなたも私も一緒....」

「否定はしませんよ」

静かに詩は言った。

「ずいぶんと素直なのね」

「だけど、」

詩の声色が急に冷たくなった。

「俺がいない間に俺の仲間に何かしたら、許さない、今度こそ」

「いっちょまえなこと言うのね。

何でそこまでするの?

....先生ごっこでも、してるつもり?」

冷たい声に、月も冷たい声で返した。

「....そうかもしれないっすね」

あっさり認めたことに、月は内心驚いていた。

「でも、純粋にあいつらといると楽しいから。

一緒にいる仲間がいるってだけで、俺の支えになるから、どんなことでも今は耐えられる。

そんな、先生がくれた居場所と仲間を守りたいから」

そう話す詩は、穏やかだった。

詩に光が差していた。

だけどそれが、月の勘にいちいち障る。

結局、私だけおいてけぼり。

光を与えられることはあっても、光を知った後に落とされた闇は前よりもっと、暗く感じた。

光を思い出すだけでも、空しくて、苦しかった。

「月先輩、あなたもいつかわかりますよ」

ふいに詩が言った。

「何言って....」

「アリスへの絶望とか、アリスに苦しめられた思いは俺もわかります。

でも、諦めたら終わりだ。

望めばいつだって、手の届くところに光はあるんだから。

それにつかまって、もがけば、苦しくてもその先に光はちゃんとあるから。

少なくとも俺はそうだった。

だから、まずは笑いましょうよ」

詩は、そう笑顔で言った。

さっきまでのシリアスな雰囲気は、どこかへいってしまった。

詩は、輝いていた。

こんなふうに、彼は笑うんだ...と、ふと思ってしまった。

敵なのに、敵と思っていたのは私だけ....?

その瞬間、月の頭をよぎるものがあったけれど、月は気づかぬフリをした。

やっぱり、気に食わない......

なんで私を、こんな気持ちにさせるの....!

そう思ったけど、去っていく詩に、何の言葉も返せなかった。






今井昴に向けた自分のアリス。

詩はどう思うだろうか。

そんなことは、どうでもよかった。

どうでもいいはずだった。

それなのに、いつもはためらわない手が、その時は一瞬だけためらってしまった。

ーあいつらといるのが楽しい

そう言った詩の曇りのない笑顔。

同じ闇に落ちたと思っていたのに、違った。

そう、思い知らされた。

なんで、あんなふうに笑えるの。

もやもやした気持ちは、憎しみに変える術しか知らなかった____






これで、いいの.....これで。

「あたしがどうなろうとあの親娘だけは逃がすわけにはいかないのよ!」

今度こそ絶対に逃がさない。

柚香...っ








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