兄妹/奇跡
「―君のおかげで、ずいぶん動きやすくなった.....##NAME2##」
そう、隣で櫻野くんは言うけど、額には汗が浮き出ていた。
確かに私のアリスで敵は追ってこないけど、櫻野くんはずっと自分のアリスを使い続けている。
蜜柑ちゃんたちと合流するため、それと、詩に託された今井くんを取り戻すため。
3人の絆は、本当に強いものだといつも感じる。
私が学園に来る前にあった出来事が彼らを強く結びつけた。
過去を見て、改めてそう実感した。
私は8歳の時、学園に入学した。
その頃から詩は目立っていた。
目立っていたといっても、今の詩とは正反対で、彼に付きまとうのは悪い噂ばかり。
あまり教室にも来なくて、来たと思えばちょっとしたことでカッとなってアリスを使い、彼が教室にいると必ず騒動がおこって、授業がつぶれた。
目つきもみんなとは違って、目が合っただけで睨まれるとみんな言っていた。
だから私も、近づかないようにはしていたけれど、ふと彼をみると、いつも悲しそうな、切なそうな、そんな目をしていた。
いつもみんなに乱暴なことをする目つきとは全然違って、私は少しずつ、そんな彼が気になっていった。
雰囲気だって、自分よりもずっと大人びて見えて、1人何かを抱えて、決め込んでいるような.....ただ漠然とだけど、そんな印象をあの頃からもっていた。
そんな感じだから、最初は孤立していると思っていた。
でもそれは違って.......
いつも詩が暴れると、その間に櫻野くんと今井くんが入って、詩をとめていた。
詩が機嫌の悪い時、誰も話しかけようとしないのに、彼らは普通に話しかけていた。
そんな様子に、最初は驚いた。
クラスで1,2位をあらそうほどの秀才で、次期幹部生候補とも噂されてて、先生たちからも一目置かれる彼らが、詩とまともにわたりあえる唯一の存在だったのだから。
先生たちでも、詩をとめることはできないのに、彼らの言うことは、詩は素直に聞いていたと思う。
それに、3人一緒にいる姿を見かけることも珍しくはなかった。
詩とは正反対の彼らだと思っていたのに、すごく意外だった。
クラスの誰に聞いても理由はわからず、ただ、
「今井くんと東雲くんって、前パートナーだったってことは聞いたことあるよ」
という話は聞いた。
それでも納得できるほどの理由ではない。
初等部の頃はそんなことを考えていた。
もっと驚いたのは、詩の笑ったところをはじめて見たとき。
あれは、星がきれいな夜のことだった。
星があまりにもきれいで、ベッドに入るのを忘れ、窓からその夜空を眺めている時だった。
寮の玄関から、詩と、櫻野くんと、今井くんの3人が出てきた。
詩が、櫻野くんと今井くんを引っ張るように........
夜間自室から出るのを禁止されているのに、櫻野くんと今井くんが出てきているのには少し驚いた。
何を話しているのかは聞こえなかったけど、詩は、確かに笑っていた。
はじめて見るその笑顔に、見入ってしまった。
教室では見られない、その笑顔に.....
櫻野くんと今井くんは星空を見る前までは、無理やり起こされたのか機嫌が悪そうに見えたけど、星空を見た瞬間、ぱっと詩のような笑顔になっていた。
その光景が微笑ましくて、私もつい、笑ってしまった。
3人は夜空を指差し、何やら話していた。
3人をつなぐ者は何なのだろうか........
今、それを話しているのかな。
何だか安心した気持ちになった。
詩は、1人じゃないんだなって......
いつも何だかほっとけないくらい、詩が気になって、でも近づく勇気は私にはなくて。
中等部になって詩はすごく変わって、近づきやすくなったのはよかったけど、それは私だけじゃなくて。
急に詩の周りには、初等部のときとは考えられないくらい人が集まってきていた。
それも何だか辛かった。
あの笑顔を、みんなに向けるようになった詩。
次第に、その笑顔を独り占めしたくなるような衝動にかられた。
詩も、詩の周りも変わったな、と思っていたけれど、
あの3人は、まったく変わっていなかった。
互いに、3人は特別だった。
3人でいる時は他の誰かといる時とは雰囲気が違った。
そんな様子が、羨ましかった。
私も、詩の特別になりたい。
日に日にその思いは増していった。
そしてそれが、叶いつつあった。
詩は約束してくれた。
傍にいると、傍で笑っていてくれると。
だから詩、お願い。
無事でいて。
私も、今井くんを取り戻すから.....っ
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