兄妹/奇跡
詩が、ペルソナのもとに向かう前。
「よ、秀~!」
約束どおりに目の前にテレポートで現れた詩は、いつものように僕を呼んだ。
傍らには、##NAME1##がいた。
「詩、ケガは!?」
すぐに駆け寄る。
「大丈夫だって、心配すんなっ
昴のアリスがあればこんなのへーきへーき。
それよりもお前のテレポートのほうが難しーよ」
笑って、詩は言った。
詩がテレポートが苦手なのはきいていた。
「秀も、無事でよかった」
その時、詩が僕の肩越しに後ろを見て、あからさまに嫌な顔をした。
「げっじんじんいるなんて聞いてねーよー」
神野先生は詩の天敵だっけ。
そう思い出すと、こんな状況でも笑ってしまう。
やはり、詩は詩だ。
いつもと変わらない詩に、安心した。
でもわかる。
詩の瞳の奥に秘められた固い決意は、以前よりも数倍大きいことに。
「....今までずっと言ってなかった。
でも、今は言わなきゃいけないと思ったから言う。
俺は........先生の最期を見たんだ。
式神を通して____」
「え___」
衝撃の事実に、後の言葉が見つからなかった。
「先生の無念の死を間近で見て、最初は頭の整理がつかなかったけど、
先生がいないっていう実感が沸いてきたら......ペルソナのような生徒を、誰が守るんだろうって。
俺は先生にこの学園で光をもらった。
仲間、家族と呼べる存在をもらった。
ずっと笑顔でいられる、そんな居場所をもらった。
でも、俺はそんな先生に何もしていない。
だからせめても、先生の成し遂げたかったことを俺が代わりに受け継いで、
先生の守りたかったものを俺が代わりに守りたい、そう思ったんだ」
「詩....」
声をかけたいけれど、何て声をかけたらいいかわからない。
詩は、ずっとそんな思いを抱えて.....
そう思うと、あの時、あの瞬間、詩が何を思い何を考えて行動していたか、痛いほどに伝わった。
「じゃ、秀。
俺もう行かなきゃ。
##NAME1##を、頼む」
「詩....っ」
そう声をかけたが、違う声に遮られた。
「東雲」
神野だった。
「お前の行動を今更とめるなんて資格、今の私には無い。
今まで見てみぬフリをし、お前の行動に甘えてきた。
でもそれは、行平にもできなかったことをお前なら....と希望をどこかに持っていたからかもしれん。
でもあいつ...行平は、お前が身を削ってまで、自分を犠牲にしてまで成し遂げてほしいとは思わんはずだ。
だから.....行平と同じ結末になることだけは、」
「あったりまえじゃん!」
最後の言葉を聞かず、詩は言った。
「てからしくねーの、じんじんってば」
そう、いつものように詩は悪戯っぽく笑った。
「秀......昴のこと」
詩はまた櫻野に向き直った。
「わかってる。
昴は絶対僕が取り戻す。
約束だ」
そう、強く言った。
「ああ。頼んだ、秀」
最後の言葉を交わし、詩は##NAME1##と最後の抱擁をして、とうとう、その場から姿を消した。
―僕は、詩....君に追いつけているのかな.....
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