式神使いの闇
みんな、ぞっとした。
呆然と立っていた。
##NAME1##は顔を覆い、もう立っていられないという様子。
そんな##NAME1##を殿は支える。
「詩、お前....」
そして、何もできない自分をひどく呪った。
詩はいつもの任務時のように、我を忘れ、強引に自分の体からアリスを引き出し、相手に向ける。
こうでもしないと、自分の心を無くさないと、任務なんてやってられなかった。
振りかざした手から式神が放たれ、風紀隊に襲い掛かる。
シャッという音をたて、一瞬にして傷口が開き、攻撃をくらった風紀隊から血しぶきがあがる。
風紀隊は驚き慌てて、銃を取り落とす。
すぐ隣にいた者たちは、その一撃に怯んで後ずさりする。
別にたいしたケガにはならないだろう。
だけど、あたりを恐怖にさらすのには十分の効果があった。
だけど.....
―ダンッ!
「ぅ゛っ....」
音と共に感じた痛みに足を押さえる。
銃弾が足をかすめる。
「詩先輩!」
「詩!」
蜜柑たちの、叫びに似た声が後ろで聞こえた。
「どうしたんです、詩。
こんなの君らしくないじゃないですか
守りたいものがあるなら、急所を狙わなくちゃ。
いつものように....ね?
こんな攻撃、意味のないものですよ。
はやく本気を出してください。
次は....外しませんから」
にやりと東堂は笑った。
それに悔しさで顔をゆがめる。
確かに東堂の言うとおり。
こんな攻撃を続けても意味がない。
手加減してる余裕なんて自分にはない。
それが今の状況。
東堂の言うとおり、急所....首を
いや、こんなところでできるわけない。
蜜柑や##NAME1##....みんな見ている。
傷つけることしかできないアリス....
傷つけることでしか、みんなを守れないアリス......
誰も傷つけたくない。
自分のアリスを嫌いになりたくない。
......これは、本当に最終手段。
肉体的というより、精神的に堪えるから今までほとんど使ったことが無い。
......自分のアリスで、ある意味一番嫌いな力。
―ザァァァァァッ!!!!
詩は覚悟を決め、ありったけの式神を出した。
その式神は円となって東堂らのまわりをくるくるとまわる。
竜巻とは違う、不思議な動き。
それは蝶のようにしなやかに、妖しく浮遊した。
その動きに連なるように、中にいる者たちの目も虚ろになり、動きにあわせ目が泳ぐ。
そして、銃をバタバタととり落とし、地面に膝を突く。
「なっ何をした...!詩!」
東堂が戸惑い、たじろぐ。
しかしそんな東堂の目も虚ろになっていく。
そして、皆が急に頭を抱えてうめき始めた。
―自分自身の一番弱く、醜く、思い出したくない部分が悪夢となって襲い掛かる......
誰にでもあるそれを、深く深く眠っていて自分自身で鍵をかけていたそれを、強引に引き出す。
〝闇の式神〟とも呼ばれるそれ......
「やっヤメロ!」
「ち、違うんだ!」
「来るな!こっちへ来るなぁ!」
「もう、思い出したくないんだ!」
「やだ、やだやだやだやだぁ!」
「やめてくれ....やめてくれ.....」
あるはずもないところに話しかけている者もいれば、うずくまり震えている者、泣き叫ぶ者もいた。
目の前の異様な光景に、蜜柑たちは理解ができないでいた。
「詩、お前何して.....」
殿が呟いた。
しかし、詩の様子もおかしかった。
式神を操るためにかざした右腕が震えていた。
それを左手が抑えていて、何かに耐えているような感じだった。
「くっ
アリスが....アリスが止まらない.....
暴走する......っ
うっ...
うわぁぁぁぁあああああ!!!!!」
一際大きな詩の奇声があがり、詩の周りにも、あのおかしな動きのする式神が現れた。
尋常じゃない詩のようすに、みんなが心配する。
「詩!詩、今何が起こってるの!?」
##NAME1##が竜巻から出ようとする。
しかし、ガッと殿に捕まれそれは阻まれる。
「離して!詩が!」
必死な##NAME1##に殿は辛そうな顔を向ける。
「こっから出るのは無理だ。
詩はこれ以上、人を自分のアリスで傷つけたくないんだ!」
「.....詩」
何もできないやるせなさがこみ上げるのだった。
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