式神使いの闇
「条件は1つだけ。
簡単なことです。
〝東雲 詩が、今すぐ投降すること〟」
―!
「何言ってるんだよ!
さっきから聞いてればむちゃくちゃなことぬかしやがって!」
―カチャッ......
翼に、銃が向けられた。
その迷いのない動作に、皆ひるむ。
「おい東堂!」
詩の声に冷静に反応する東堂。
「黙ってください。
.....さっきも言ったでしょう?
冷静にならないと、取引きが台無しだ....って。
分かりにくかったなら言い換えましょう。
少しでもこちらに敵意を見せたら取引きは不成立、ということで今すぐ制圧にとりかかります。
.....さあ、詩
君の答えを。
私は君のために言ってるんです。
そんなボロボロの体で戦うなんて無茶すぎる。
何も、〝佐倉蜜柑〟を出せと言ってるのではないのです。
詩くん、あなたでいいんですよ
君さえこちらに来てくれれば、誰も傷つかない。
いい条件だとは、思いませんか?」
にやりと、東堂は笑った。
俯いたまま、詩は前に出た。
「さっきお前が言ってた通り。
長年任務を一緒にやってきたんだからお前の考えてることくらい、嫌でもわかる。
だから言える。
お前なんか信用できねぇ。
取引でお前が少しでも譲歩したのは見たことねえ。
冷徹で人の心もないようなお前のことだ。
どうせ俺を捕らえたあと、蜜柑たちも捕らえるって算段なんだろ。
そんな手には....乗れねぇな」
詩の声が一段と冷たくなった。
「詩先輩...?」
蜜柑が何かを察したのか、不安そうに呟く。
「では.....
条件は、不成立。
ということで、いいんですね」
東堂は機械的な冷静さでそう言って、メガネをくっとあげると詩と向き合った。
「詩、君には本当にがっかりだ。
こんなに君が愚かだったとは。
では最後に、校長からの伝言をお伝えしましょう。
〝お前に光は一生見せない〟
詩、君はもう終わりだ」
「ここでお前なんかに負ける気はしねぇ。
ここは何が何でも俺がとめる。
俺はどんな目で見られても、この先光が差さなくてもかまわない。
ただ、俺の居場所を作ってくれた仲間....いや、家族を失うのは、絶対に嫌だ!
そのために戦ってるんだ。
学園がこんなふうになって、もうこれ以上、お前らに従う必要はない」
―ぶわぁーっ!!!!
今までにないくらいの、大きな白い竜巻が起きた。
「詩っ!」
詩の決意を理解したみんなは詩と一緒に戦おうと決め、詩のそばにいこうとするが、
―ザザザザッ!!!
詩と、蜜柑らのあいだに、式神の壁があらわれた。
しかし、壁とは少し表現が違う。
「これ、竜巻の中心?!」
殿が驚いたように言う。
中心は無風で害はないが、この竜巻の外にでるのは至難のわざ。
体が引き裂かれるだろう。
もし棗が炎で燃やそうとしても、この竜巻だ。
こちらが焼けてしまう。
棗は炎を出そうとした手を引っ込める。
「詩.....っ!!」
##NAME1##の悲鳴に似た声が響く。
「これは、俺の相手だ。
お前らは手を出すな」
蜜柑らが身動きをとれないでいる中、詩は東堂と正面から向き合った。
みんなには見えないが、詩の目は、任務の時の目だった。
冷たく、鋭く、荒んだ、人間ではない、動物の獲物を狩る目.......
緊迫した状況だというのに、東堂はひどく興奮していた。
―いいぞ、詩。
君のアリスはそうやって使うのがいい。
それが君の本来の姿なんだ。
力を開放するときこそ、君は自由になれる....
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