アリス紛失事件/特力の教室
翼と詩は、なんだか兄弟のようだった。
お互いに会っていない間のことを報告しあい、他愛もない話題で盛り上がり、
たまにおなかを抱えてそろって笑っている。
そんな光景は特力の名物のようで、みんな端から見守っていた。
そして蜜柑は、なぜか殿の膝の上に座っている。
自然な流れでどうしたらそんなことになるのか...
周りの美咲やメガネは殿が蜜柑へ何かしないか目を光らせている。
そこへ、いつの間にいたのか、特力担当教諭のだっちがお茶を運んできた。
「殿内君は、〝増幅〟のアリスの持ち主でね
簡単に言うと他人と共鳴することによって、その人のアリスを一時的により大きく強く引き出すアリスで
君と同じで彼1人では特に何がある、という力ではないのですが
彼の力を〝パートナー〟として必要とされる事がとても多く、それにこれも君と同じくめずらしいアリスなので
だからよく、外の仕事に同行される事が多くてここを留守がちなんです」
のだっちの説明の中、蜜柑は『自分と似ている』という言葉から、殿に興味をもつのだった。
「俺のアリスは、見たほうが早いよ」
俺も自己紹介しなきゃな、と詩がやってくる。
翼はそんな詩の姿が珍しいなと思っていた。
いつも周りに人がいる詩だけど、それはみんなが詩の魅力に惹きつけられて集まっているだけで。
詩の方から誰かに近づいていくのをみるのは、それこそ危力の後輩、棗以来だった。
詩は蜜柑に、興味を持っていた。
今日ここに来た目的はもちろん、久しく会っていない特力メンバーの元気な顔を見るのもそうだけれど、
一番は、“蜜柑”
直属の後輩、棗のパートナー。
公には伏せられているレオの一件。
入学当初より、学園側から特別視されている少女.....
そしてその、“無効化”のアリス____
「おっ蜜柑はラッキーだなっ
詩のアリスが見れるのは珍しいからな」
翼の言葉に、蜜柑は興味津々で、詩のそばに行く。
「別に、俺は隠してねーよ」
と詩は笑う。そして前髪越しに蜜柑と目を合わせて
「よく見てろよー」と、机の上に手をかざす。
すると、どこからともなく、人型の紙がでてきた。
それは机をあちこち歩き回る。
「?」
蜜柑は、口をポカンと開ける。
「まっその反応は想像の範囲内。これだけ見てもぴんとこないよな」
詩はいたずらっぽく笑う。
「こいつは〝式神〟って言うんだ。
俺はこの式神を出して操るアリス」
詩はその〝式神〟を手の中で遊ばせる。
「操る?」
蜜柑は首を傾げる。
詩の人気に反して、学園でもこのアリスをちゃんと知っている人は限られる。
「簡単に言うと、詩の分身みたいなもんだよ」
その様子を見ていた殿が付け足す。
詩はうんうんと頷く。
「1つ例にあげるとすれば、____」
そう言って詩は、式神の真ん中を指でつーっとなぞる。
すると式神は真っ二つに。
「この一方を誰かに貼っ付ければ_____」
詩は一方をぴんっと指ではじく。
それは真っ直ぐ蜜柑の左腕についた。
「わっ....」
蜜柑はいきなりのことに少々驚く。
「佐倉蜜柑、10歳、初等部B組、ここに来る前はおじいさんと2人暮らし。
へぇ、こんな田舎に住んでたんだぁ。
親友でアリスの蛍ちゃんを追ってここまできて...そしてナル先生の紹介?で入学。
ははは...っ
ナルも大胆なことをするなぁ...
あの道化師の一存で、我が後輩のパートナーになったわけか...」
詩は初めて会ったにもかかわらず、蜜柑についてのいろいろな情報をしゃべった。
驚く蜜柑に、詩は笑う。
「どう?当たってるでしょ?
もう一方の式神を俺がもっていれば、蜜柑の記憶、考えてる事がわかる。
蜜柑と離れていてもそれは同じことで、その場合、どこにいるかも何をしているかもわかる」
蜜柑は、純粋にすごい、と目を丸くする。
「ま、俺は滅多にこうゆう物騒なことはしないから安心して」
その言葉は蜜柑に言ったものではあるが、
あんまり乱用すんなよ趣味わりぃ、とぼそっと詩だけに聞こえる声で言った殿に向けてが主だった。
少し探ってみたくて近づいたのは事実。
実際、もっと深層心理___自分が“知りたいこと”もこの無防備な少女、蜜柑について探ることはできたけれど
それは自分の趣味ではない。
なんてたって、たった少し一緒にいるだけでもわかるこの雰囲気。
笑い声や純粋な瞳が、確かめる必要があるのかとさえ思えてくる。
決して、知ることが自分の記憶を、心をかき乱すから...というわけではない。
と、自分に言い聞かせた。
そしてまた、詩は笑う。
「こんな感じで使い勝手がいいから、よく殿みたいに外に借り出されるんだ」
そう言って、詩は蜜柑の腕から、式神に触れることなくそれを剥がす。
その後も詩は、式神を複数出して教室内を飛ばせて、蜜柑を楽しませた。
蜜柑と詩はすぐに打ち解けたのだった。
遊んでもらいながら、蜜柑は詩が学園一の人気たる所以がよくわかった気がした。
場を和ませて、よく笑う人。
その顔は、前髪であまりよくわからなかったけど、すごく綺麗だと思った。
彼がいる空間は、たしかに心地いい。
彼を中心に、みんな、つられて笑う。
今日は素敵な先輩に2人も出会えた_____
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